第12話 初めてのダンジョン 1


僕の名前はリントン。つい先日冒険者試験に合格した新米冒険者だ。同期の4人でパーティーを組んで今は隣の国への旅の途中だ。

今は街道近くの森でモンスター狩りだ。この辺りにはレアなアイテムを落とすモンスターが居ると図鑑には書いてある。夜は強いモンスターが出るって来たけどこの辺りは大して強いモンスターが出ない場所だ。4人いれば大丈夫だろう。


「リントン。そろそろ戻ろうよ。強いモンスターが出たらどうするのさ…」


このヘタレの名前はニース。卒業の時にパーティーを組めずに余っていたから誘ってやった。俺達の中では唯一の魔法職だ。


「大丈夫だぜ。この街道沿いの森はFランクのモンスターしか出ないって街で買った地図に書いてあるぜ。」


こいつはグラン。僕の幼なじみだ。僕達のパーティーの中で1番の力持ちでハンマー使いだ。


「その地図って信用できるのかしら?もしかしたら適当に書かれたものかもしれないわよ?」


「大丈夫だろ。ほら、ここに地理院の認定印が押してあるぜ。」


「油断は大敵よ?偽装した印鑑を押した地図だって出回っているんだから。」


「ったく。サナは心配性だな。少しは信用というものを覚えた方がいいぜ。」


グランと話している女子の名前はサナ。このパーティーの紅一点だ。武器は弓矢だ。

森に入って2時間が経過するが成果は上々だ。これだけあれば数日分の宿代にはなるだろう。でもできればもう少し集めておきたい。特定のアイテムがあれば武器や防具の素材になるからな。

僕達はもっといいドロップアイテムを落とすモンスターを探して森の奥へと入ることにした。


「でも夜は危ないって講習でもやっていたよね。これ以上進むのは止めようよ。」


「冒険者たるもの多少の危険は付き物だせ。ニースだってそれを承知で冒険者になったんだろ?」


「それはそうだけど…でもいきなり夜の森に入る必要はないでしょ。まずは十分昼の森に入って経験を積んでからの方がいいよ。」


「でもここは弱いモンスターしか出ないって書いてあるぜ?大丈夫だろ。」


「うぅ…わかったよ。ついていくよ。」


こうして僕達は森の奥へと入っていくのだった。




「あの薄明かりはもしかしたら…」


「多分ダンジョンじゃないかしら?」


あれから1時間程森を進むと森を抜けて草原にたどり着いた。そして、その草原の先に、地面から薄明かりが出ているのを見つけた。

あれはもしかしたらダンジョンかもしれない。誰かが明かりを灯していたとしてもあそこまでは明るくならない筈だ。でも講習で見たダンジョンとはちょっと違うなあ。


「たぶん出来たばかりのダンジョンね。」


なるほど。それなら確かに納得できる。まだ出来たばかりで外に広がっていないダンジョンって事かな。そんな小さなダンジョンなら新米の僕たちでも攻略できるかもしれない。


「とりあえず近くの街に行ってギルドに報告しようよ。」


「その前にダンジョンの中に入って見ない?出来始めのダンジョンならスライムみたいな弱いモンスターしか出て来ないんじゃないかな?」


それにダンジョンにはお宝が眠っているらしいからね。上手くいけば大儲けできるチャンスだ。スライムぐらいなら僕たちでも倒せるし、もしも危なかったら引き返せばいい。前の街で買った逃げるためのアイテムもあるし入ってみる価値はあると思う。


「嫌だよ。ダンジョンってボスがいるって聞いたし。ボスに会ったら今の僕たちじゃ勝てないよ。」


「バカだなぁ、ボスの部屋まで行かなければいいだけだぜ。」


「そうね。逃げるためのアイテムもあるわけだし入ってみてもいいんじゃない?」


「僕は反対だよ。まずはギルドに報告するべきだよ。」


「じゃあ1人でギルドまで報告に行くか?」


「分かったよ。ついていけばいいんでしょ。ついていけば。」


「よし、決まりだな。」


俺達はダンジョンに入った。入り口には…モンスターはいないみたいだな。講習で行ったダンジョンは入り口にモンスターが居たけどこのダンジョンにはモンスターが居ないなあ。多分出来始めのダンジョンの中でも一番最初の段階のダンジョンなんじゃないかな?

ダンジョンの通路の直径は10m程だ。講習の時に行ったダンジョンと同じぐらいの広さだ。でも講習で行ったダンジョンは門があった。門作られていないぐらいだから本当に出来始めのダンジョンなんだろうな。


そんなことを考えながら10分ほど歩くと分かれ道にたどり着いた。うーん。いままでモンスターに遭遇していないし2手に分かれても大丈夫かな?


「分かれ道か…グラン、どうする?」


「モンスターも見てないし2手に分かれても大丈夫だと思うぜ?」


ここまでモンスターのいないダンジョンだ。もしこの先にモンスターが居てもスライムみたいに弱いモンスターが少しいるぐらいだろう。2手に分かれたら戦力も半減するけどスライムは1人でも対処できるモンスターだから問題は無いはずだ。


「でも強いモンスターが出てくるかもしれないからみんなで動いた方がいいよ。」


「そんな強いモンスターが出てくるダンジョンだったらとっくにモンスターが出てきているだろ。そんなこと心配するだけ損だぜ。」


「ってことで2手に分かれよう。俺とグランが右側担当、ニースとサナとで左を探索しよう。」


僕たちは2手に分かれて探索を始めた。もしも何かがあった場合はここで合流することにした。まあこんな初期ダンジョンなら何かがあるなんてことは無いだろうけど。




あれから30分ぐらい歩いて何体かモンスターを見かけたけど…距離があったからこっちに気づいていなかったのかな…?襲われることは無かった…。

それにしてもあのモンスター…この地域に居るモンスターじゃないかもしれない。モンスター図鑑には載っていなかったなあ。


「しかしモンスターもバカだぜ。俺達に気づかないとはな。」


「でもそっちの方がいいよ。うまく行けば気づかれずに1番下まで行けるんじゃないかな?」


「いや、さすがにそこまでは上手くいかないと思うぜ。ほら、敵のお出ましだぜ。」


「なっ…!」


俺達の目の前にモンスターが現れていた。そこの曲がり角から来たのか…いきなり襲われるって事無かったのは幸いだけど数が多い…。

敵は8匹…2匹は他の6匹よりもかなり大きいな…先に小さい方を片付けて最後に大きい方を倒すか…

僕とグランは武器を構えた。数が多いから迂闊に仕掛けることはできない…ここは慎重に行こう。


先に動いたのはモンスターの方だった。一斉に僕たちに向かって来た。初めての実戦か…かかってこい!

僕に向かってきたのは小型のモンスター6匹だ。1匹なら余裕で倒せるだろうけど数が多い。


僕は背後に回られないように気を付けながら最初に向かってきた1匹の頭に剣を降り下ろした。

多少の傷はついたが致命傷にはなっていないみたいだ。どうやら頭を真っ二つにするのは難しそうだ…。なら胴体はどうだ!

僕はモンスターの横に回り胴体に剣を降った。どうやら今度は効いたみたいだ。切り口からは体液が流れ出ている。


こっちはこのまま押しきれそうだな。

俺は大きいモンスターと戦っているグランの方に目をやった。さすがに押されているみたいだ。なるべく早く助けに回らないと…。




「はぁ!せぃ!」


僕は早くグランの援護に回るために群がってくるモンスターを斬り倒していった。残りは3匹…あの顎に噛まれたら痛いだろうけど当たらなければいいだけだ!

正面から僕を襲おうとしたモンスターの頭に剣を降り下ろして怯ませ、素早く背後に回り胴体に剣を降り下ろしてモンスターの胴体を切り裂いた。残る2匹も僕は同じように胴体を攻撃して倒した。


よし、こっちは全部倒した。グラン!今助けるぞ!

グランを助けようとした時、僕たちが来た道から新たなモンスターがやってきた。グランと戦っているモンスターが2体居る…くそっ!やるしかない!

僕は覚悟を決め、剣を構えた。大きくても同じ種類のモンスターだ!弱点だって同じはずだ!


僕は剣を頭を狙って振り下ろした。でも頭に振り下ろした剣ははじき返されてしまった。勿論モンスターにダメージを受けた気配はない。

怯まないなら直接胴体を切ればいいだけだ。僕は先ほどと同じく横に回り込み、胴体に剣を振り下ろした。


くっ…!かなり堅い…!


先ほどとは違ってモンスターの体を切り裂くことはできなかった。僕が振り下ろした剣は傷こそつけたものの、途中で止まってしまった。でもダメージは入った筈だ。このまま…うわっ!

後ろからもう1体のモンスターが攻撃を仕掛けてきた。

何とか避けられたけど…あの顎で挟まれたら痛いじゃ済まなそうだ。多分骨を折られるか腕が千切られるだろう。


「リントン!大丈夫か!」


「これ以上数が増えたらヤバそうだ!」


「そうだな!こっちは1体倒したがかなり怪我をした!さっさと倒して帰りたいぜ!」


グランの体を見ると腕や足に無数の切り傷を負っていた。あれだけ怪我をすればかなり痛そうだ。そういう俺もここまでの戦闘でかなりの傷を負った。さっき6匹に襲われたときに色々な場所を噛まれたからな…

今はギリギリ持ちこたえられているけどこれ以上モンスターが増えたらやられる…速く逃げないと…!


「チッ!離れやがれ!」


「グラン!大丈夫か!」


「この小さい奴が群がって来やがる!こっちはあのデカいので手一杯なのに!こりゃ本格手にヤバそうだぜ!」


グランを助けたいけど…こっちも大きいの2匹の相手をしていてギリギリだ…くそっ…あの時分かれないで4人で来るんだった…2人は無事かな…


「嘘だろ…!さらにモンスターが来やがった…!」


「そんな…これ以上増えたら勝ち目は…」


僕たちの目の前には絶望が広がっていた…奥からさらにモンスターが押し寄せてきた。しかも数が多い…厄介なデカいモンスターも4匹来ている…こんな事になるならモンスターに襲われたときにさっさと逃げるんだった…。

足を怪我している状態で逃げれるかどうかは分からないけど…このまま戦っていたら殺される…!


「グラン!逃げよう!このままじゃ殺される!」


「ああ、俺もそう思っていたところだぜ!足がどこまで持つかは分からないが走れるだけ走ろう!」


僕とグランは戦うのを止めて逃げることにした。走るたびに傷を負った足が痛む…でも立ち止まったら待っているのは死だ…!

僕はまだ痛みを堪えて走ることが出来たが…グランは明らかに痛そうな表情をしていた。


「グラン、大丈夫か?」


「ハァハァ…くそっ…足が痛みやがるぜ。こいつはどこまで持つかは分からないな。」


「バカなこと言うなよ。一緒に脱出しよう!」


とはいってもモンスターとの距離は縮まっている…このままじゃいずれ追いつかれる…出口にたどり着くのが先か追いつかれるのが先か…


僕たちは死に物狂いで走った。だがさっき分かれた場所まであと1歩のところでグランの足に限界が来てしまった。


「グラン!ダメだ!あとちょっとだ!立ってくれ!」


「そんなことは分かっている!でも足が動かないんだ!」


僕はグランを励ましながら少しでも彼が経つ時間を稼ぐために剣を構えた。この相手の数で勝てる気はしない…でも僕はグランを置いて逃げることなんてできない!


「何をやってんるんだぜ!お前だけでも逃げろ!」


「俺だけ逃げることなんてできない!だから早く立ってくれ!」


「うぉぉーーー!なっ……ああぁぁーーー!」


僕の体に激痛が走った。押しつぶされるような痛みだ。僕は一瞬なぜ体が痛むのかが分からなかった。グランを襲った大きなモンスターに挟まれている自分のお腹を見てようやく痛みの原因を理解した。


「離れろ!離れてくれぇ!」


「リントン大丈…うぐぁーーーー!」


「グラン!グラン!痛い!痛ぁい!助けて!助けてくれ!」


挟まれて動けない僕に小さなモンスターが群がってくる…ダメだ…意識が…ニース…サナ…逃げてくれ…ここに居たら殺される…

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