第11話 初めての戦い 2

「残り2人の反応が出た。第2階層に通じる通路に向かってきているな。」


先程の2人を倒してから数分後、残る2人の反応が出た。捉えたのは侵入者が来たため急遽哨戒を命じたフライターマイトだ。

アンがモニターにモンスターの視界を映した。よし、今度はぼやけずに鮮明に写るな。フライターマイトは偵察だけじゃなく監視カメラ代わりにも使えるな。弱いけど。


「どうするんだ?このままだと第2階層に続く通路にたどり着くぞ?」


「さっきの様子からして防衛線を突破されることはないだろう。それよりも逃げられないように入り口を封鎖する必要があるな。予定通り入り口を封鎖する。」


俺は入り口付近の側道に隠しておいたターマイト達を入り口にスタンバイさせた。これでとりあえず外に出られる心配は無くなった訳だ。ソルジャーターマイトも数体居るから2人程度ならここで倒せるだろう。


「グレイスが別動隊を向かわせるかと聞いているぞ。」


「いや、相手が本隊に近づくまで待とう。その方が犠牲を抑えられる。気づかれないように後をつけさせてくれ。」


現在のこっちの被害はターマイトが7体死亡、今第2階層に居る別動隊は10部隊。内約はソルジャーターマイトが20体、ターマイト60体だ。

侵入者2人に対してやりすぎかもしれないがどのみち入り口は封鎖した。相手が罠にかかるまでも待っていいだろう。


「彼らに集中するのはいいが…他の冒険者が来たときの備えはしているのか?」


「ああ、それも一応備えてある。グレイス。他の冒険者が近づいている気配はあるか?」


グレイスはアンに今のところ他の冒険者の冒険者が近づいていないことを伝えた。

それだけじゃない。万が一近づかれても入り口の部隊と森に潜んでいる部隊で挟撃を仕掛けることも可能なように準備を整えてある。


「なるほど、策は打っていると言うことか。」


「策を使わずに済むのが一番なんだけどな。」


俺は相手に気付かれないようにフライターマイトで冒険者を尾行した。尾行に気付かれないよう距離を取って追ったので途中何度か反応が消えたが大体の場所は分かっていたので見失うことはなかった。

20分ほどして2人の冒険者は本隊が守っている第2層へと続く通路にたどり着いた。どうやら本隊の数を見て足を止めたようだ。だが引き返そうとしても無駄だ。すでに後方には別動隊が待機している。


「勝負を仕掛けるか?」


「ああ、今なら確実に仕留められるだろう。アン、グレイス。指示を出してくれ。」


「了解した。」


俺はアンとグレイスに別動隊と本体を動かすように指示を出した。


「第1ライン防衛隊、前進せよ!」


まずは2階層に続く通路を守っていた本隊が冒険者の元へ歩みを進めた。本隊にはソルジャーターマイトが20体居る。これだけでもこっちが圧倒的に有利だ。ターマイトの大群を見た冒険者たちは急いで逃げだした。だが既に包囲網は完成している。もう手遅れだ。反対側には別動隊がいる。

その時だった。突然視界共有が切れた。モンスターに何かがあったらしい。


「クソっ!魔法か!それに視界共有が途切れた!」


「落ち着けリン、あれは魔法じゃない。魔力を感じなかった。おそらくアイテムを使ったのだろう。」


「そうか、とりあえず視界を繋ぎなおそう。」


俺は無事だったソルジャーターマイトに視界共有を使った。モニターには吹き飛ばされたターマイト達が映っていた。生体反応が消えていないから死んではいないようだ。気絶しているだけか…よかった。

だが今ので本隊と別動隊のターマイトほとんどは無力化されてしまったな。幸いなのがソルジャーはひるんだだけで済んだことか。


「今度は何だ!急に視界が真っ白になったぞ。」


「くっ、煙幕か!」


「マズい!逃げられるぞ!」


煙幕で視界が完全にシャットアウトされた。生体反応も消えている所も見るとモンスターを見失ったみたいだな。さっきの2人を倒せて油断したか…。

だが幸いにも煙幕を張られる直前にアンがターマイト達に指示を出していたおかげで冒険者の1人を転ばせることができた。


「アン、今捕まえた冒険者の始末は頼む!」


「ああ分かった!」


アンに捕まえたもう片方の冒険者の始末を任せ、俺は無事だったソルジャーターマイトの数体を追撃に向かわせた。手傷は負わせた筈だが…かなり逃げ足が速いな…でもいずれはスタミナが尽きるはずだ。


俺は無理に攻撃は加えず、相手が力尽きるのを待った。だかなかなか力尽きない。このままじゃ逃げ切られるな。というか手傷を負ってこれかよ。この世界の人間ってもしかしたら俺のいた世界の人間よりもよっぽどタフなんじゃないか?


決定打を加えられないまま10分が経ち、冒険者は驚くことにダンジョンの入り口付近にたどり着いていた。

あのペースでこれだけの時間を走れるなんて…俺の居た世界ならオリンピックに出られるぞ?しかし手傷を追って入り口まで逃げるとはな…もしも入り口で仕留められなければ厄介になるな。伏兵は森に潜ませたが必ずそこを通るとは限らない。もしも逃がしたら厄介なことになるかもしれない。


そして冒険者は外に通じる通路にたどり着いた。俺は壁の中に隠れさせていたターマイト達に冒険者を攻撃するように指示を与えた。

壁に開けられた穴からターマイト達が一斉に飛び出す。その光景を見た冒険者は足を止めた。ターマイト達はその隙を見逃さす彼の足に噛みついて彼を転ばせ、一斉に群がった。




「ふぅ…何とか勝ったな…それなりの犠牲は出たが…」


「犠牲が出るのはやむをえない。グレイスもやむを得ない犠牲だったと言っている。」


ソルジャーの数が少なかったとはいえ普通のターマイトを戦わせたのは失敗だったな…次に備えてソルジャーターマイトの数をもっと増やさないといけないな。普通のターマイトは偵察や後方支援のような直接戦闘する機会の少ない職に転換させよう。


「さて、じゃあ残るは後処理だな。リン。ダンジョンに死体を吸収させるんだ。DPが貰える。」


俺はマップに映る死体を選択し、ダンジョンに吸収させた。

おっ、DPが増えたな。増えたDPは500Ptか、自然増加量の5時間分だな。でも犠牲を考えたらあまり美味しくはないな。ターマイトの犠牲が0でようやく採算が取れるぐらいだ。採算をとる為にも戦力の増強は必須という訳か。


「次はアイテム回収だな。マップから落ちているアイテムを選択して回収を選ぶんだ。」


「ああ、分かった。」


俺は言われた通り冒険者が持っていたアイテムを選択し、回収を選んだ。すると冒険者が身に着けていたアイテムが俺の足元に転送されてきた。送られてきたのは革製の鎧とポーチ、武器だ。何かレアな効力がないか確認してみたが、特にレアな効果はついていなかった。


「アン、何か欲しい武器とかアイテムはあるか?」


「特に目ぼしいものはないな。剣は使えなくもないが私は魔法のほうが得意だからな。」


「そうか、じゃあ剣は俺が貰ってもいいか?」


「お前は剣術の心得でもあるのか?」


「無いが護身用としてだ。素手で戦うよりはよっぽどマシだろう。」


「そうだな。じゃあ剣はお前が持つといい。私には魔法があるからな。」


そして残ったアイテムはいざというときに備えて保管することにした。俺が鎧を着て戦うときなんてもう敗戦が間近だろうけどこのままで挑むよりはマシなはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る