エピローグ

「それじゃあ《女神の雫》は取り逃しちゃったけど、何とか無事帰って来れたのを祝って……かんぱーい!」

『かんぱーい!』

 ティオの音頭で今日もまた宴が始まる。

 

 場所は今回もノーヴェの泊まる宿の食堂だ。

 安くで貸し切れて、出てくる料理は美味く、それでいて店主の口は堅い。

 正に言う事なしだ。

「いやー流石に今回のアイツには手を焼かされたな」

「大分危なっかしい所もあったけど、ノーヴェの坊やが頑張ってくれたお陰だねぇ」

「防御結界でブン殴るという発想は中々、興味深かったですね」

「あれは……ホントに偶然で……。何とかして倒さなきゃって、無我夢中で」

「良くて腕一本丸々無くなるかもしれんマネをしたと?」

「うっ……。あの時はそこまで頭が回ってなかったんだ……」

「ノーヴェって意外と思い切りが良いというか、無茶苦茶するよねー」

「ティオサンニハカンシャシテオリマス」

「あははは。まかせんさーい!」

 ミスリルゴーレム戦の戦い方を弄られるノーヴェ。

「まー、ホントにヤバかったのは、ゴーレムよりもあの……」

「隊長格の女だねぇ」

 ヴェンティの言葉をフィーアが横からさらう。

「全然本気を出していない感じがヒシヒシと伝わって来たよ。ありゃあ相当なバケモンだね」

「二度と敵として相見えたくはないな」

「おや? 二人が同じ意見とは珍しい。明日は雨でも降るのかな」

 クォートが二人を揶揄からかう。

「まあ、私も二人と同意見ですけどね」

 あんなのを相手にしていたら命が幾つあっても足りはしない。共通の認識であった。

「でも……」

 ティオがそんな三人に口を開く。

「そういう相手とるのって、楽しくない?」

「分かる!」

「実戦魔法の研究には欠かせませんね」

 フィーアとクォートが即答する。

「かあーっ! こいつらと来たらこれだ! 頭可笑しいんじゃねぇか? なあ、ノーヴェ。お前もそう思うだろ?」

 意外とマトモな事を述べるヴェンティが、お前はこっち派だろ? とノーヴェに振るが、

「いやー……、強敵と命を削りあう死闘、良いよなぁ……」

 ノーヴェもあっち側の人でした。

「おう……まじか……。まさかこのパーティで一番の常識人が俺だったとは……」

『それはない』

 何故か全員から総ツッコミを食らうヴェンティ。納得いかねぇって顔をしていると、

「お前が常識人なら、世の人達は皆聖人か何かだろうさ」

 店主にまでそんなツッコミを貰い、「そりゃねーぜ」とがっくり肩を落としていた。

「で? そのゴーレムを倒してからはどうしてたんだ?」

 店主に尋ねられたノーヴェはゴーレム戦の後、目が覚めてからの事を思い出す。


 目が覚めたら、ティオに膝枕されていて気持ち好いやら照れ臭いやら、複雑な……いや、もっと寝ていたかったなぁというのが正直な感想。

 戦闘のあおりで馬は皆逃げてしまっていたので、仕方なく徒歩で一日掛けて第二関所まで戻ると、そこにはそれはもう見事に大破した壁が。

 乗せていた人達は途中で気が付き、馬を逃がした後何とか台座から降りたものの、乗っていた台座の勢いは止まらずそのまま関所から延びる石壁に激突。これを一部とは言え大破させていたのだ。

 騎士達や警備兵達の口添えもありとがめられる事はなかった──散々嫌味は言われた──が、壊れた壁を見た時は全力で逃げる準備をしてしまったものだ。

 騎士達と一緒に飛ばした商人にふんした工作員は、気が付いた時には居なくなっていたそうだ。

 その翌日にはまた戦闘のあった場所へと戻って実況見分。兼、ゴーレムの材料となったミスリルの回収に協力。壁の修繕費にてるそうだ。

 あと一応ミスリルゴーレムの撃破に対し、謝礼金として幾ばくかの報酬を貰った。

 倒した相手を考えれば雀の涙の様な報酬であったが、差っ引かれた分も壁の修繕費だと言われれば黙るしかない。

 本当なら修繕費を請求したいところだが、人命救助とゴーレム撃破の功績をかんがみて、一応感謝したと言うていを取るという今回の形になった訳であった。

 後はもう特に用もなかったので、準備が出来次第ローレンツィア行きの馬車に乗って第二関所街を後にした。

 そして馬車に揺られる事二日。

 日が暮れる前に着いたのを良い事に、早速ノーヴェの泊まる宿に駆け込み食堂を貸し切り、そして今へ至ると言う訳だ。


「で? 肝心のブツは取り逃したままと」

「良い線行ったんだけどねー。相手が悪かったね」

 実際一回は奪取したティオが、あれは仕方ない。ムリムリ。と首を振る。

「駄目だった割には、ノーヴェが気にした様子がないな?」

 話もそこそこにお腹が減っていたノーヴェは、料理をがっついている所に店主からそんな話を振られたので、口を一杯にしながらも「ふぉふぇふぁ」と喋ろうとする。

「取り敢えず飲み込んでから喋れ」

 コクンと頷き、モグモグモグモグ……ゴクンと飲み込み麦酒をグイッと一口呷る。

「プファー。……えっと、何だっけ。ああそうそう。まあ《女神の雫》はあくまで手段であって目的ではないから。《女神の雫》を集められたとしても、本当にそれでレベルをリセット出来るかというと、集めてみなきゃ分からないしね。ダメならダメで別の方法を探すだけさ。それに、当面の目的の内、収入と仲間っていう二つが果たせたんだ、むしろ順調過ぎて自分が怖くなってしまうね」

 最後は冗談めかして、髪を掻き上げ格好を付けてみる。

 元々レベルのリセット、ないしはダウンさせるという最終目的がそう簡単に行くとはノーヴェも思っていない。だから一つ二つ、十や百の失敗があったとて、生きてさえいれば気にする程の事ではなかった。

 その言葉に、

「ヒューヒュー! ノーヴェカッコイイ!」

 ティオがノリノリで応えてくれる。

「取り敢えずこれで一段落着いた事だし、明日辺り、どうだい?」

 とフィーアがノーヴェを誘う。

「ダーメーデースー!」

 すかさずティオが両手で大きくバッテンを作る。

「アタシはノーヴェに聞いてるんだが?」

「駄目ったら駄目ですーー! ノーヴェが行くって言っても行かせませんー!」

「えー……」

「はいそこ! えー、じゃない!」

「残念だねぇ。じゃあまたティオが居ない時にでも誘うかねぇ」

「居ない時なんかありませーん!」

 売り言葉に買い言葉でトンでもない事を言っている事にティオは気付かない。

「わお! もう姉さん女房気取りかい?」

 とフィーアがティオを揶揄うと、やっと自分の発言に気付いたのか顔を真っ赤にして反論する。

「ああああ、コレは、そそそそ、そういう意味じゃないから!」

「じゃあどういう立場からの言葉なんだろうねぇ?」

「どういう……保護者みたいな? お姉さん的な?」

「え?」

「はいそこ! え? じゃない!」

 そんな二人の遣り取りに思わず吹き出してしまうフィーア。

 フィーアに揶揄われていただけだと気づいたティオが、「もう!」と怒ったフリをする。

 ヴェンティとクォートは結成間もないパーティながら、気心の知れた遣り取りをのんびりと眺めながら酒の肴にしている。

 じゃれ合いながら、ノーヴェは笑っていた。ティオも笑っていた。フィーアもヴェンティも。クォートは……どうだったかな?

 本当に良い仲間が出来た。

 そう心からノーヴェは思うのだった。


 こうしてノーヴェは激動のローレンツィア生活をスタートさせた。

 そしてそれははからずも、少々予定とは違ってはいたものの、前世で果たせなかった理想の異世界生活の始まりでもあった。

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Lv999なのにステータスが初期値なんですけどっ!? はまだない @mayomusou

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