番外編1 シベリアのウドン粉料理4

 貝原沙羅の勤めている図書館は、複合施設の二階にある。

 二階フロアの全てが図書館で、地下に駐車場と駐輪場、一階は商業スペース、三階に会議室や多目的ルーム、四階にソファとテーブルなどの置かれた共有スペースと、カフェテリア、そして、ガーデンテラスがあり、五階以上が住居スペースになってるのだという。

 カフェテリアでは軽食があり、ランチプレートがおすすめだそうだ。

ランチプレートは日替わりで、一階に入っているパン屋の焼きたてパンか米屋の塩むすびが選べるのだそうだ。


「ランチプレート、おいしそう、今度食べに行こうかな」

「ぜひ、ランチデートしましょう」


 彼女は屈託なく笑う。

 私は、カフェテリアの画面から、フロアガイドにもどると、同じ階に書店があるのを見つけた。


「一階に本屋さんが入ってるんだ」

「大きな図書館と同じ建物内だと、書店の売り上げが減ったりするのではと思われがちなんですけど、うちに関しては、そうでもないみたいなんです」

「そうなの」

「はい、店長さんとは個人的に顔見知りで、というか、場所が便利なんで仕事帰りにほぼ毎日寄ってて、雑誌や文庫本をよく買ってるんです」

「そっか。通勤経路に本屋さんがあると便利だよね」

「はい」


 彼女はにっこりすると、話を続けた。

 図書館が入ってから、むしろ売り上げは増えたのだそうだ。

 もともと駅に近いということもあり、通勤客、通学客など地元民の利用者がメインだったが、設備の整った図書館ができたということで、施設そのものへの地区外からの利用者が増えた。

 そして、休日のショッピングや外食のついでに図書館に寄って、貸出期限のきた本を返すついでに、同じ本を書店に立ち寄って購入したり、図書館にはあまり置かれていない雑誌やコミック類、ライトノベル類を購入していったりするのだそうだ。


「とにかく、人の出入りがないことには、あらゆる販売業はなりたたないですよね」

「確かに。人に出入りしてもらって、興味をもってもらって、手にとってもらって」

「そうなんです。隙間産業とか、ニッチとか、個性を売りものにするのも大事ですけど、それを買ってくれる人がいないと、だめなんですよね。趣味ならともかく」

「かといって、自分の個性や技術を安売りするのは、結局その業界全体を安売りすることにつながるから、うーん、一概には言えないと思う」

「わあ、ほんと、そうなんです。今さらって感じですけど、自分がその立場にたってみると、実感します」

「え、図書館は販売業じゃないのに、実感って? 」

「ああ、え、と、イベントの集客のことです。販売ではなくって、営業、ですね。うまく説明できなくて、すみません。なんとなくつながってる感じがして」


 彼女は、ふうっ、とため息をつくと、チーズケーキを大きく一切れカットすると、頬張った。

 今、彼女の口の中は、さわやかで甘いレアチーズケーキでいっぱいだ。

 甘くておいしいもので、口の中がいっぱい。

 小さな癒しのひと時。







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