番外編1 シベリアのウドン粉料理3

「あ、すみません、もしかして、凪田先輩、これから見るんですか」

「そう。でも、先にお茶してからって思ってた」


 執筆の合間の気晴らしに一人でお茶するのがパターンだったが、たまには誰かと話すのもいいかもしれない。


「じゃ、ミュージアムカフェ行きましょ」


 貝原沙羅に言われるまま、エントランスホールを抜けて光の射し込むパティオの向こうにあるミュージアムカフェへ。

 パティオの見える席に座って、ゴジラのいるカフェで二人揃ってケーキセットをたのんだ。


「あれって、着ぐるみだったよね」

「はい、東宝の砧スタジオゆかりみたいですよ」

「ここは文学館だけど、展示物を見ると、美術館や博物館っぽいとこあるのが、いいな」

「そうですよね。うちの図書館でも、本だけじゃなくて、テーマコーナーを作る時は、作家の愛用品や、関連文学マップを作って、展示してますよ」


 「うちの」図書館か。

 職場に愛着があるのだなと思う。


「さすがにグッズの販売はしてないんでしょ」

「そうですね、マップは無料配布です」


 おしゃべりをしているうちに、注文の品が運ばれてきた。

 紅茶とチーズケーキ。

 彼女とのおしゃべりには、コーヒーより紅茶が合う。

 ティーカップにやわらかな陽射し。

 やわらかなチーズケーキは、さっぱりとおいしい。


「今、図書館の本を使って外国の料理を作ろうっていうイベントを計画してるんです」

「それ、面白そう」

「夏休みに絵本でおやつ、っていうのをやったら大好評で。未就学児向け企画で保護者と子どもでって募集したんですけど、両親だけでなく、おじーちゃん、おばーちゃんも一緒に参加したいって声が多くて」

「私も保護者枠で参加したかったな」

「え、先輩、まさかお子さん」

「違う違うって、保護者枠って言ってるでしょ、親子枠じゃなくって」

「そうですよね、あー、びっくりした」


 彼女はカールさせた睫毛をしばたたかせた。


「食べる企画って、皆さん、興味持ってくださるんですよね」

「そりゃあ、グルメの話題は、老若男女共通の興味のまとだもの。で、今度も子ども向け企画? 」

「いえ、今度は、大人向け、というか、文豪料理って、今、カフェやイベントであるじゃないですか。その路線で、近代文学作品からって考えてます。凪田先輩の小説を読んで、これだ、って確信したんです」


 自分の小説を読んで発想してくれたんだと思うと、照れくさかった。


「図書館で料理できるの」

「はい、今のとこは、複合施設に入ってるんですよ。地域住民が交流したり、講座を開いたり、カルチャースクールとまではいかなんですが講習会をしたり、映画上映会のできる設備もあるんですよ」


 熱心な口調の彼女は、学生時代の冗長なしゃべり方ではなくなっている。

 仕事に誇りをもっているのかな、と思い、微笑ましくなる。







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