イメージ膨らむ古道具たち

たった四つの掌編。語られるのは不思議な特徴をもった古道具たち。一つの品物に焦点を当てた語りにはなっているが、決してそれは物語というような形式をとってはいない。が、ただの商品説明というわけでもない。あくまでも「掌編小説」という体裁だ。

それぞれに物語的な起伏があるわけでない。目立った事件が起こるわけでも、その顛末が情感豊かに語り進められるわけでもない。それは「作品として面白味が欠ける」と切り捨てられるような感想を読者に与えてしまうかもしれない。

が、なんだかそれではもったいない気もする。『小さな町の古道具屋さん』という作品を語る上でどうしても言及しないといけない部分を見落としていると言える。

描かずに、描写している。

正確に言えば、描かないことで読者に想像させている。これは地味であるがなかなか出来る技術ではない。小説にしても、漫画にしても物語を創作した経験がある者であれば皆一度は「描きすぎてしまう」経験をしたことがあるだろうから。

文学として名が挙がる作品はみな、「描かない」ことで表現している部分が多々ある。この作品がそうして古典的な文学作品と同等かと言えば、さすがにそれは言い過ぎだろうけれども、同等の表現技法にチャレンジしていると感じた。

鳴らしたその人にとっての、思い出のメロディを奏でるオルゴール。白雪姫に出てくる「世界でいちばんきれいな顔」を映す鏡台。姿は見えない魔人を呼ぶ、古いランプ。店主にだけ姿を見せ、撫でると溶けていく老猫。

そんな品物や生き物がいる古道具屋には、きっと古い家具の取っ手や金具がなんかも置いているだろう。内壁は気を基調としているかもしれない。どこなく良い香りがするかもしれない。店主は白い口髭が似合う老紳士だろう。入り口を開けたら小さなベルが鳴るかもしれない。ところどころギシッと床が鳴るかもしれない……。

外観や店内の描写はほとんど無い。店主についてもそう。どういった経緯でその店が生まれたかも語られない。でも、想像できる。そこに置かれている不思議な品物が、そうさせる。

表現する、ということの自由性を改めて気づかされた作品だ。たった四話だけなのが、少し哀しい。



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