その6


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 ――それから、どうなったか?

 何も変わりません。


 その少年は初めから居なかったかのように扱われ、私もそうなのだと思うより他ありません。


 きっと、期待してはいけないのです。

 これは罪なのでしょう。

 私という者が存在している罪。

 生きるための罪を償うため、神様は罰をお与えになるのでしょう。


 今までこのようなことが何度あったか、もう数えることすら止めました。

 それは意味のないことです。



「幼き天使のとまり木よ、祝福あれ」

 誰かが挨拶してきました。


「幼き天使のとまり木よ、祝福あれ」

 同じように返します。


「浮かない顔をしているね。ちょっと気分転換にお出かけしてみないかい? 孤児院の外に出る機会なんてそうそう無いから、きっと楽しいよ」

 誰かが私に話しかけてきます。

 どこかに出かける。

 よくわかりませんが、そうしろと言われたらそうするだけのことです。

 私はわかりましたと返事します。


「よし、じゃあ支度をして、準備ができたら出発しよう。途中までは歩くけど、馬車が迎えに来てくれるから大丈夫」

「この孤児院を出ていく、ということですか」

「ああごめん、そんなわけじゃないよ。不安がらせちゃったらごめんね。大丈夫、また戻ってくるから」


 この孤児院を出ていくことに不安はありません。

 また戻ってくることに安堵感もありません。

 流れ行く水のように、あるようにしてそこにあるだけです。



 もし私が天使だとしても、翼をもがれ、飛び立つことすら許されない。

 鳥かごの中で死ぬまで生きる、哀れな天使なのでしょう。



 ――天使のとまり木に祈りを捧げる信仰、通称天使信仰。



 そんなもの、私は信じない。


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天使のとまり木 いずも @tizumo

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