7-1 山口からの怒涛の着信履歴。帰宅すると、もう寝ていた。

 萌さんと食事して観覧車に乗って帰ると、もとい、青木さんと飲んだ時の報告を終えて帰宅すると、山口はもう寝ていた。まだ十一時前なのに。疲れていたのかもしれない。

 山口からの怒涛の着信履歴を見て、あわててマナー違反の通話をすると、ぼくの家に入る許可をとるための電話だった。そういえば、いつぞや、勝手に入らずに許可を取れと言ったんだった。一時間くらい玄関前で締め出しを食ったらしい。そこは、融通を効かせて良かったんだけど、普段の山口なら融通を効かせるところなんだけど、今日はどうしたんだろう、ムキになって許可があるまでは部屋にはいらないと固く心に決めていたみたいだ。

 山口の寝顔をのぞく。幸せそうに寝ているから、起こさずに寝かせておく。キス、してもいいかなと思ったけど、一回したから調子にのってると思われる恐れがある。やめておいた。山口が起きているときにしよう。

 翌朝、目が覚めた。床まで届いていないカーテンの隙間から差し込む光が、今日もいい天気であることを、床に寝ているぼくに雄弁に語りかけてくる。自然に目が覚めるまで寝ていられた。いい一日だ。でも、トイレに行きたい。長く寝すぎたかもしれない。床から頭を起こすと、体の上のテーブルに朝食がのっていた。ラップがかかっている。

 トイレで用を足してスッキリして、部屋にもどった。テーブルにはぼくの分の朝食だけがあった。山口の姿はない。帰ってしまったようだ。帰るまえに起こしてくれれば見送りくらいしたのに。そのあとにまた寝るけど。今週は撮影旅行にいくつもりはないということらしい。ゆっくり朝食を食べることにしよう。

 ご飯を電子レンジにかけ、味噌汁の鍋を火にかけ、おかずのほうれん草の巣ごもりのラップをはがす。

 昨日の山口も、今朝の山口も、いつもとちがう感じがした。今日か明日のうちに会って、話を聞いてやったほうがよさそうだ。

 味噌汁の鍋で端の方が泡を出しはじめた。火を消す。湯気が立ちのぼる。ご飯が温まって、電子レンジがとまる。ご飯と入れ替わりにおかずの皿を電子レンジにいれてスタートする。ご飯と味噌汁をテーブルにもっていく。おかずがパチパチと音を立てはじめた。急いで電子レンジにもどって止める。こういう一連の作業を無駄なくこなせると、ぼくも一人前の社会人だなと思う。山口に言ったら、レベル低すぎとけなされそうだけど。

 食後、コーヒーをいれてから山口に電話をかけたけど、でなかった。メールで今夜夕食をどこかで一緒にしないかと誘った。

 洗濯して、めずらしく外に干した。普段はでかけてしまうから、休日でも部屋干しだったりする。

 青木さんにいわれたことが気になって、いままで撮った写真を全部引っ張りだしてきて見直してみることにした。賞に応募できるようなものがあるだろうか。

 どれも面白くないように思う。それに、山口と一緒に撮ったものばかりだ。このあたりは、まだ電車とかを使っていてバイクじゃなかったとか。このときは、別行動で現地集合にして山口はバイクでやってきたとか。山口とのエピソードがこびりついている。ぼくは、いままで自分の写真を撮れていないんじゃないかという気がしてきて、うんざりした。ファイルを放りだして床に寝転がる。もちろん山口が悪いのではない。山口がいなかったら、これらの写真自体存在しなかっただろう。

 気分を変えて、富士山の撮影に行く計画を考えはじめた。どこから撮るか。定番は湖越しの富士だろう。ネットで調べ始めたら、河口湖か山中湖がよさそうだとすぐにわかった。

 地図のサイトで見る。河口湖なら駅が近くにある。富士急ハイランドもすぐだ。泊りなら、二日目は遊園地によって遊んでから帰ってもいいかもしれない。萌さんは遊園地なんか行きたくないというかな。どちらにしろ、河口湖を第一候補にして萌さんに相談してみよう。

 アクセスを調べると、新宿から高速バスで二時間くらいでいけるみたいだ。電車で乗り換えるよりいい気がする。それにしても河口湖は広そうだ。周囲をバスが走っているから、バスで撮影場所を探そう。萌さんが撮影に飽きたら遊覧船に乗って遊ぶこともできそうだ。

 萌さんと行くには富士山撮影、いい選択だったみたいだ。

 山口からメールで、夕食を一緒に食べてもいいと返事がきた。渋谷で待ち合わせという指定だった。渋谷なら早めに行ってレコードや古本を漁ろうかと思ったけど、レコードの袋をもって食事にいくのは山口が嫌うような気がした。干した布団と洗濯物を取り込んで、シャワーを浴びてから、せいぜい清潔な服に着替えて家をでた。

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