ステルス無人島には誰も来ないでください!!

ちびまるフォイ

「誰かいるかー?」「この島には誰もいないよー!」

「ここは……」


男が目を覚ましたのは絶海の孤島だった。

持っていたものは漂流時になくなっている。


「うそだろ……俺、無人島に流れ着いちゃったのか。

 そんな、こんな島でいったいどうやって生きていけば良いんだ!!」




と、男が状況説明がてらクソでかい独り言をしゃべっているその恥ずかしい様子を

無人島にすでに住んでいた人は草葉の陰から眺めていた。


「あいつだれ……」


先住人は無人島に暮らしてだいぶ期間が経っていた。

助けを求めることよりも都会の喧騒を忘れたこの島での生活になれ始め

しだいに人との交流も不要な人生を送っていた。


今ごろになって新しい住人が来たところで、

シェアハウスの新住人のように快く迎えいられる心の余裕などない。


「どうしよう、声かけたほうがいいのかな。

 でももうずっと人と話してなかったからなんて声かけて良いのか……」


先住人は持ち前の人見知りをいかんなく発揮し、

憧れの先輩を眺める女子生徒のごとく漂流者を見守る生活が続いた。


「おーーい!! 誰か!! 誰かいないのかーー!!」


漂流者はほうぼう島を探索して誰かを探した。


恥ずかしがり屋の先住人は自分の住居から何まで証拠を隠滅したことで

ますます漂流したての男にはここが無人島のように映った。


「くそ……誰もいないのか。ここは無人島なんだな。これからどうすれば……」


漂流者はやっぱり出て友達になろうかとも思ったが、

仮に知り合ったとしてウマが合わなくなったらこの馴染んできた無人島が急に牢獄と化する。


最悪の場合、不信感をつのらせた二人が無人島で殺し合いを始めるかもしれない。


「ああ、せっかくのこの静かな場所を追われるリスクがあるのなら

 自然にあいつがいなくなるまでまとう」


先住人は幻のシックスマンがごとくに自分の存在を消し、

食事の痕跡も、排泄物も、足跡も消した。


まるで誰もいないように。


漂流者は海岸で水平線を見ながらため息をついていた。


「このままこの無人島にいても死ぬだけだよな……」


(おっ!?)


先住人は漂流者の言葉に思わず聞き耳を立てる。


「いっそ、この海を泳いでいったほうが無人島で衰弱するよりも

 どこかの船に見つかったり、島にたどり着けるかもしれない」


(いいぞいいぞ! 出ていってくれ!)


先住人はついに見えた懐かしの独身生活の光明が見えた。



「あ、でも、俺泳げないから漂流したんだった……」



"なんだよ!!"と流木をぶん投げたくなった先住人だったが

自分の存在に気づかれると後が面倒なので必死にこらえた。


それからしばらくすると、漂流者は無人島だと勝手に思い込み服を脱いだ。


「もうこうなったら死ぬまでこの島を遊び回ってやる!!」


人は極限状態まで追い込まれると思考を止めてしまうものなのだと先住人は思い知った。

真っ裸の漂流者は島をぐるぐる回って木々をなぎ倒し、思うままに排泄物を垂れ流し

ありとあらゆる常識とモラルのしがらみを解き放った。


(ああああ……俺の……俺の果樹園が……)


無人島で長く住んでいた先住人の果樹園は、

突如エンカウントした裸猿により好き放題に汚されてしまった。


いっそ寝込みを襲おうかと殺意すらわいた先住人だったが、

この無人島を殺人現場にしてしまったら毎日罪悪感と向き合わなければならない。


(なんとかして、あの男を追い出すしかない)


先住人は固く決意した。

この日を境に、先住人によるステルスSOS作戦が決行された。


漂流者がまるで助けを求める行動を起こさないために、


先住人は目の届かないところで助けを求めるビンをながし、

浜辺にSOSの文字を描き、寝静まった頃にこっそり煙を上げたりした。


「うーーん、トイレトイレ」


(は、早く消さないと!!)


思春期の男子がお母さんにエッチな本を隠すかの速度で

先住人は漂流者に気づかれないよう痕跡を消した。


自分の存在を気取られてしまうと快適独り身無人島生活が終わりを告げる。



数日後のことだった。


「あ、あれは!!」


先住人と漂流者の思いがひとつになったとき、

無人島から見える水平線の向こうに船影が見えた。


「おーーい!! おーーい!! こっちだ! 誰か助けてくれーー!!」


衰弱していた漂流者は最後の力を振り絞って助けを求めた。

先住人は漂流者の背中側から光を使ったモールス信号を送り続ける。


それに気づいた船が無人島にやってくると漂流者はついに救出された。


「ああ、よかった。最後まで希望を捨てないで本当によかった……!」


「他にこの島にはいないのか?」


「ええ、俺以外誰もいません、無人島です」


「よしわかった。出航!」


船は無人島を離れて港へと戻っていた。

その様子を眺めながら先住人はほっと胸をなでおろした。


「これでやっと自分だけの無人島生活に戻れるぞーー!」


先住人は取り戻した自由を謳歌した。









数年後、漂流者の話を聞いた人が聖地巡礼してくるまでは……。

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