第58話 プレデター

「どうしたんですか?」

新島村が、昼食🥗の準備をしながら訊ねた。

「私たちお似合いみたいに見えるんやて。どうする?さあウチの事、どうよ?」

服部がそう言って、ニシャリと笑って答えた。悪寒が新幹線🚄より早く背骨を走り抜けた。


「いやあ、そうかなあ」

「五十ちゃんにも、そんな感じの事を言われた事があるよ」

新島村は、服部からのその言葉に自分の首が根本から折れるくらいガックリ来た。まさか、五十川までそんな事を思っていたとは。ショックで心臓🫀が止まりそうになった。


服部は、完全に施設長の無責任な発言に乗り上げて舞い上がっている。

「🎵ぞう🐘さん、ぞう🐘さん、お鼻👃が長いのね」

「何、それ?」

「童謡っていうから」 

童謡を歌って🎤誤魔化そうとした。

「こんな時にオヤジギャグはいらんねん!」

服部が、そう言って「ムッ」となった顔をした。


『本気か?』と思った。

服部は、なかなかやり方が姑息だった。一連の新島村に対しての言動が、冗談なのか、お愛想なのか、はたまた本気なのかがわからなかった。それはまるで、景色に溶け込む映画のプレデターのように本心が見えない。服部の誘い水を、完全に蛇口🚰から浄水場の根元から止めてしまうしか他に方法はなさそうだ。それは、曖昧な攻めをしてくる相手に対して、新島村も冗談のように見せながら、スッパリと断る。それは下手に服部に期待を持たす方が酷いだろうと思ったからだ。


「まあ、いいじゃない?応援団頑張りましょうよ。打倒荒川ね」

そう服部がニヤケながら呟く。

『間もなくお湯が沸きます♨️』

風呂から音声が聞こえた。

「佐久田さん、お風呂🛀行くわ」

そう言って、服部が佐久田さんに入浴🛀の声をかけに行った。


「さあ、今から大層な体操しょうか?」

そう言って新島村は、台所から出て皆に声を掛けた。本来なら、爆笑が起こるはずが、悲しいかな。ここは認知症対応のグループホームだ。砂漠に水💦を撒くように何も起こらなかった。服部が、佐久田に何かを話しかけながら浴室🛀に案内して行った。

「私は何処に行くのでしょう?」

佐久田の言い方はいつも紳士的だった。


五十川たちのグループに入れると思うと、少しワクワクしていたのに。まさか服部とお似合いだと思っているとは。五十川の何とか誤解を解かなくては。それが例え12面体のルーブビックキューブだとしても。小谷と付き合っているというのに。

そんなこと、関係無いじゃないか。職場に楽しみがあるのはいい事だと改めて思う。


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ダイヤモンドの降る夜は 針井伽羅藩 @pekerochan

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