第16話

 そして開店の時がやってくる。

 また二人は喧嘩をしている。

 お客さんがいないというのに随分と賑やかだ。


 私はそのまま入り口にあるクローズの掛札をオープンへ変えた。

 とそこへ、既に一人の男性。

 お客さんだろうか。


 前髪が長い。顔が見えない。でも若いということは分かる。大学生ぐらいだろうか。


「もうやっている?」


 とその男の人は聞いてくる。

 私は静かに頷く。言葉は発さない。多分、店員としては最低なことなんだろう。いらっしゃいませも言えないとは。

 その男の人は私をキツく睨んだ。


 私の心臓が止まりそうになる。

 男の人は店内へ入っていった。

 私はその場を立ち尽くしたままだった。


 私のあの態度で、もしかしたら気を悪くしたのかもしれない。

 私のあの態度で、もうこの店に二度とリピートしてこないかもしれない。


 そう考えると諏訪さんに申し訳ない気持ちが出てくる。


 それからすぐ、もう一人入店される。

 今度は、昨日もいた新聞を読んでいたおじさんだ。


「……」


 私は黙り混む。

 なにも言えない。

 いらっしゃいませ。その最初の言葉すらも言えない。


 またにらまれる。

 黙る。

 やってしまった。


 どうして私はいつもこうなのだろうか。

 こうやって人と仲良く喋ることが出来ないのだろうか。


 情けなく思う。


 そんなんだから私は小学生、中学生と友達がいなかった。

 だからこそ、高校生になったら変わってやると思った。

 しかし変わることが出来ない。

 人と目が会うだけで、冷たい汗が出てしまう。


 私の足はでくの坊になっていた。

 頼む。これ以上のお客さんよ、来ないでくれ。そう私は祈る。


 そして


「私は最低だ」


 そんな自分が嫌になった。

 諏訪さんの大切にしているお店のお客さんをこのように扱うのだから。

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ちょっと喫茶店で働いてみませんか? 長井音琴 @charon6918

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