第8話 小包

夏休みが始まり、僕は学校に行かなくていいことに安堵した。


部活や友達との交流に割く時間が皆無であったため、私は早々に夏休みの宿題を終え、暇を持て余していた。


正午過ぎに郵便局のバイクが家の前に止まると、ベッドに寝転んでいた僕は飛び起き、1階へ駆け下りた。


そして、胸を高鳴らせながら玄関の前に立った。


なぜ僕がアイドルの出待ちのように郵便配達を待っているかというと、次のような仮説を立てたためだ。


僕が郵便局に行った翌日にウィルに手紙が届き、その日のうちにウィルが返事を書くとする。その翌日にウィルが郵送すると早ければ今日届く可能性がある。


ピンポーン


郵便配達員が呼び鈴を鳴らした。


僕はすぐにドアを開けた。すると、黒縁メガネをかけた小太りの郵便配達の男が、汗を小さなタオルで拭っていた。

「早いね。助かるよ。はい、これどうぞ」

配達員は僕に小包を手渡した。父宛の小包であった。

「ああ」

僕は落胆しながらも配達員から荷物を受け取った。そして、

「ここに受け取りのサインをお願い」

配達員が指差した欄に苗字を書いた。


僕のがっかりした顔を見た配達員は、

「期待していたものと違った?」

と訊いた。

「ええ、まぁ」

僕は曖昧に答えた。

「まだ夕方にもチャンスはあるよ」

配達員は僕を元気付けるように言うと、「じゃあね」と言ってドアを閉めた。


バイクが去る音が聞こえてきた。


「夕方か」

僕が小包を持って、リビングに行こうとするとドアが再び開き、父が玄関に飛び込んできた。


父は僕が脇に抱えている小包の存在に気づくと、

「それ、お父さんのか?」

と言った。声が少し上ずっている。父は肩で息をしていた。恐らく郵便配達のバイクを見て、全速力で走ってきたのだろう。といっても、父の職場は目と鼻の先なのだが。

「うん」

父の雰囲気に圧倒された僕は、上半身を外らせながら父に小包を渡した。

「さんきゅー」

父は小包を持って、靴を急いで脱ぎ捨てるとリビングに突進した。


父は固定電話が置かれた木目調のキャビネットの一番上の引き出しを開け、ハサミを取り出した。


この時になってようやく父は僕の視線に気づき、

「自分の部屋で勉強してなさい」

と叱るように僕に命じた。


僕は猛烈に小包の中身が気になったが、父の血走った目を見て、二階に退散した。














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