写真(New花金Day)
『夜の海で撮りました』
朝方、一文とともに送られてきた写真。
まず目に付いたのは、はっきりと写ったきれいなお月様だった。さざめく海面には、月の光が一本の道のように映っている。まるで月へ向かう道のようだ。
その月の道の下で、私の恋人が佇んでいた。長い羽織がはためいている。かぐや姫でも通るんだろうか、とくすりと笑いながら、私は窓から外を見た。
こちらは雨雲におおわれていて、月どころか夜空が見えない。
そう言えば今日は七夕か。今年も天の川は大洪水だな。織姫も彦星も私らみたいにSNSでもあるといいけど。
と思っていたら、急にスマホの画面が変わる。電話だ。掛けてきたのは、この写真の送り主。
「Hello。写真見たよ」
この時間に電話を掛けてくるって珍しいね、と言うと、声を聞きたくなった、という返事。
その後寂しい、会いたい、という言葉に、私は苦笑いした。笑い声が向こうまで届いてしまったのか、向こうが少し拗ねる。君は寂しくないのか、という言葉に、私はうーん、と勿体つけた。
「寂しくはないよ」
だってこうやって、何時だってお話できる時代だ。時間が合わなきゃLINEすればいいし、顔が見たくなったらテレビ電話を掛ければいい。
「でも、会いたいな」
写真を見たら、声を聞きたくなった。顔も見たくなった。
月があんまりに眩しいせいか、その下で佇む私の恋人は、逆光で顔がよく見えない。
でも全身の輪郭が月光を浴びて青白く輝いていたから。
その見えない顔が、微笑んでいるように見えたから。
とても、綺麗な人だと思った。
私がよく知っている綺麗な人に、会いたいと思った。
ーーー
「寂しい 」=「一人」じゃないし、「寂しい」=「会いたい」ってわけでもないよね、って話を書きたかった。
無理だった()
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