第23話 美少女だらけで理性が保てない

 4月12日。


 『兎毬トマリ王国』は今日も平和だ。

 ここまで平和だと俺がいる意味なんてあるのかと思う。

 だが警察の存在意義とは、何も事件が起こった時のみにあるのでは無い。

 警察という組織がある事によって犯罪の抑止力にもなっているのだ。

 誰だって警察に逮捕されて刑務所に入りたいとは思わないだろう。

 それだって大事な警察官の役割だ。

 とは言うものの、この『兎毬トマリ王国』は現在約20人程しかいないらしく、その20人も兎毬トマリが厳選した王国民である以上、おかしな事をしようとする奴もいないのではないかと思うが。


「いやあぁーっ!やめてぇーっ!!」


 などと考えていたところに、周囲の山々までこだましそうな乙女の悲鳴が響き渡る。


「うえっへっへっへぇ!待てぇ!最近発育のええそのカラダを『おサワリン』させろぉ!!」


 その悲鳴の発生源である瀬久原セクハラ 紗羽サワが俺の交番前を新幹線の如く通過していく。

 そしてそれを追いかける橘井キツイ 杏奈アンナが同じく通過しようとするのを、エルボーで強制的に止める。


「ふがっ!!」


「やめんか!!毎朝、毎朝、お前は………」


「ええやん!美少女同士の可愛いスキンシップやん!世の男どもがお金払ってまで見たいと思ってる光景やで!?」


「残念だったな。ここは日本じゃなくて『兎毬トマリ王国』だ。そんな消費者はここにはおらん!」


「くっ………いらん知恵をつけおって!もうええわ!学校行く!!」


「いいから早く行け!!くれぐれも紗羽サワにセクハラすんなよ!!」


瀬久原セクハラだけに?」


「やかましいっ!!」


 脱兎だっとの如く走り去る杏奈アンナ

 あいつらが去ったとなると、次に来る奴らの事ももうわかっている。


「そこでスタンバってるエントリーナンバー2番!!回れ右してとっとと帰れ!!」


「まさかの登場前ツッコミ!?」


 案の定、奥の茂みで『出待ち』していた兎毬トマリ流乃ルノの二人をこちらにやって来る前に帰らせる。

 我ながらすっかりこの環境に馴染んだものだと溜め息が溢れる。


「はあ………」


 これで後は昼頃に寧音ネネが弁当を持ってきてくれるまでは俺一人の平穏な時間となる。




 静かになった空を眺めながら、俺は一つの事を考えていた。

 昨日、不覚にも卑猥な夢を見た事により不本意ながら『暴発』させてしまった事で、自分が若い女の子達に囲まれているのだという状況を再認識してしまったのだ。

 今までできるだけ意識しないようにしていたのだが、ここにいる女の子達は皆、かなりレベルの高い美少女ばかりなのである。


 瀬久原セクハラ 紗羽サワ、16歳。

 身長は155センチと小柄こがらだが、先ほど杏奈アンナも言っていたように体つきは『女性』と呼べるくらいには発育している。

 真面目で礼儀正しい性格で、つい守ってあげたいという気持ちになる子だ。


 橘井キツイ 杏奈アンナ、16歳。

 紗羽サワとは対照的に強烈な個性の持ち主で、口を開けばセクハラばかりの関西弁少女だ。

 だが、黙っていれば非の打ち所の無い美少女なのもまた事実。

 紗羽サワよりさらに小柄こがらな149センチという小学生並みの体型だが、『可愛い』という表現が一番似合うのも間違いなく杏奈アンナだろう。


 桑江クワエ 流乃ルノ、20歳。

 自他共に認める『えっちなお姉さん』だが、そのプロポーションも肉感的なナイスバディだ。

 普段は部屋にこもって漫画ばかり描いているらしいが、それでよくあの体型を維持しているものだと思う。


 間黒マグロ 寧音ネネ、18歳。

 ここで出会った中では唯一の俺と同い年の女の子だ。

 本人いわく人見知りが激しいらしく、実家は銀座の有名な寿司屋なのだが客の前で寿司を握る事ができず、客前に立たなくてもいい寿司以外の料理人を目指している。

 俺にとっては紗羽サワと同じ『真面目わく』で、正直なところ一番話しやすいかもしれない。

 そんな印象を持っている寧音ネネだが、その外見もある意味一番の『正統派美少女』と言える。


 穂照ホテル 兎毬トマリ、19歳。

 国内でも有数のリゾート企業の娘で、俺をここに連れてきた張本人。

 性格にかなりなんはあるが、見た目だけならこいつも間違いなく美少女の部類だ。

 その美少女がやたらと下ネタを口にして俺を『そっち方面』に洗脳しようとしてくる。

 やってる事は杏奈アンナと近いが、杏奈アンナには無い大人の色気を持っているぶん性質タチが悪い。




 俺自身は警察官を目指す真面目な青年のつもりではあるが、まだ彼女のできた事の無い若い男だ。

 人並みに性欲も持ち合わせている事を昨日の朝に実感させられたばかりでもある。

 あんな美少女達に囲まれ、性的なアプローチもぐいぐいと仕掛けられ、この先も理性を保てるだろうかという不安を感じ始めていた。

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