第17話 兎毬王国のルールを教えたい

 夕食後、俺は2階の兎毬トマリの部屋にいた。


「私達………二人っきりだね♡」


「くだらねぇ事はいいから、とっとと用件を言え」


「何よぅ、本当にノリが悪いんだから」


「用がその悪ノリだけなら帰るぞ」


「はいはい。じゃあまずこれを渡すわ」


 不貞腐ふてくされた顔で兎毬トマリは俺に茶封筒を手渡す。

 昨日のアカねーちゃんの手紙のようにペラペラではなく、そこそこの厚みがあった。

 手に持つと厚みだけでなく、「チャリン」という金属音も聞こえ、おそらくこの中には紙幣と硬貨が入っているのではと想像できる。

 そうとわかるとこの封筒が給料袋のように見えてきた。

 今時、現金支給の会社なんて無いと思うが。


「金か?何のつもりだ」


「まずは中を確認して頂戴」


 言われる通り、封を開けて中を確認する。


「………何だこりゃ?」


 中から出てきたのは想像してたのとはだいぶ違う、オモチャのような紙幣のたばだった。


「それはこの国内のみで使用できる通貨、『Rラビ』よ!」


「………『こども銀行券』の間違いじゃないのか?それと何だ、Rラビって」


「『ペ◯カ』のほうが良かった?」


「ここは地下労働施設か!!」


 適当に中の紙幣をペラペラと見てみると、一万、五千、千と、日本円と同じ単位ごとに種類が分かれている。

 底のほうにある硬貨もおそらく日本の硬貨と同じだけの種類があるのだろう。

 それにしても悪趣味なのは、紙幣に描かれている人物画だ。

 全て兎毬トマリがデザインされているのだが、千から五千、一万と価値が上がるにつれて兎毬トマリの服の露出が高くなっている。

 一万円………じゃなくてラビに至っては、服ではなく水着をはだけたグラビアポーズだ。


「今渡した封筒の中に入っているのは、26万6,660Rラビ。とりあえずこの国の全通貨を持ってもらう為に、一万Rラビを20枚、それ以外を10ずつ入れておいたわ」


「つまり、ここにいる間はこの金を使って買い物をしろって事か」


「そういう事♡翔琉カケル君はこの国に来て無一文の状態でしょ?だからそれは支度金したくきんのようなものだと思って。住む所はあるわけだし、とりあえずそれだけあれば生活には困らないでしょ」


「それはわかったが、これをどこで使うんだ?見て回った限り店のような物は無かったが」


「今は、ね。今後増やしていく予定だし、差し当たっては屋敷の1階に売店があるから、何か欲しい物があればそこで買い物ができるわよ。あ、一応そのお金の価値は日本円と同じだと思っていいわ。あと食事に関してはこの屋敷の食堂に来てくれれば無料よ」


 随分と良心的だな。

 寝る場所があり食事も無料なら、この金を使う機会はほとんど無いじゃないか。


「ま、ゆくゆくはそのお金だけで生活してもらうようにしていくけどね。ちなみにこの国内にいる人達は、対外的には『穂照家ホテルけの使用人』という扱いになっているわ。税金なんかの事は全て雇用主である穂照家ホテルけのほうでやってるから安心して」


 流石さすがと言うか何と言うか、これだけの規模の道楽をやっているだけあって細かい部分はちゃんとしているな。

 日本という国からすれば、国民がちゃんと払うべきものを払ってくれていれば気にもしない。

 そういう事も全て穂照家ホテルけ側でやってくれているから安心して兎毬トマリ王国民ごっこに付き合えという事だ。


「それで本題なんだけど、翔琉カケル君にはここでの職業を決めて欲しいのよ」


「職業………紗羽サワが農業をやっているみたいにか」


「その通り。紗羽サワちゃんの場合は学生で『特待生』扱いだから卒業してからでいいって言ってあるんだけど本人がやりたいって言うんでね。何かの仕事に就いてくれるなら、それに見合った『お給料』を毎月支払うわ」


 そんな何ヵ月もここに居たくないんだが。

 だが何の役割もなくここで毎日過ごすのも確かに苦痛だろう。


「なら、俺の選択する職業は一つしか無いな」

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