第13話 紀文と名乗る(御前試合をする)

「あのう申し文兵衛どの! おられるかのう」

 表戸を叩き呼ぶ声がする、辰の上刻(午前八時)だ今じぶん誰だろう、戸を開け観る。

「あっこれは、高松河内神主ですか何か?」

「文兵衛どの鮫退治の話し聞きましたぞ、それで藩主が昼に御褒美を下さるそうだ、まずは逸れを伝えにはるばるとやって来た!」

 高松河内は侍姿の裃を、文兵衛の目前に差し出す新品である。

「殿の御前で失礼なき様にこれを着て、儂と一緒に今から和歌山城へ行きましょう案内いたすほどに!」

「はい分かりました、しばらくお待ちください早速用意しますので!」

 二人は昼前に、和歌山城正門入りすぐの広場に着く青空で天気はよし。

 (ドンドンドン、ドンドコドン)

 お城の陣中大太鼓の音が、町なかに鳴り響いた腹に響く。

「此より藩主光貞公が直々の、表賞式なり山本文兵衛出ませい!」

文兵衛殿の御前にて、かしこまりてしずしず出る。

「そのほう藩命の鮫退治、大義で御座ったよって金千両及び武士の名を摂らす、文兵衛改め此より山本文左衛門と名乗るがよい!」

「ははっ、有り難き幸せに御座りまする」

 紀州徳川家二代藩主の徳川光貞公よりの感謝状と賞金を受け取った。藩主横にはお紋の方(お由利の方)が、目を細めて笑っていた。

「このたびの働き見事である。わしは紀州藩関口流指南役の佐々木利平より聞き及んでいるが、そのほうは関口流のかなりの使い手で有ると聞き及ぶがどうかな?」

「はい佐々木利平師範より、直接幼きころより手ほどきを受けて御座ります!」

「ならこの場で御前試合して、その成果を見せてはもらえぬか?」

嫌もおも無く、試合の場が設けられた一同が皆注目する。とても断れなくなって承諾する。相手は柳生新陰流の遣い手、後藤兵介という者で紀州藩の指南役を狙っている。

二人は木刀を持ち対峙する、ふと相手を見るどういうわけだろうかって神社で練習した人形に見えてきた、ならばやりやすい。

 剣術は間合いと空間が、大事だと聞かされていた、正確な間合いを把握する事でかわす事も、攻撃に利用する事も出来るのだ。

(切る間合いと、切られぬ間合いだ)

相手を見つめる、すると相手の意識が読めるどう動こうとしているのかが、事前に幻のごとくみえるので対戦しやすかった。

後藤兵助はしないをとって、二間ばかり後ろに飛びさがった。

文左衛門はしないを双手(もろて)上段に振りかぶった。後藤は青眼に構えている。文左はかまわず摺り足で詰め寄るとニ手三手しないを合わせる。

「パパパン、だだだん!」

そのまま文左衛門一気に間合いを詰める。後藤は上段から打ち据えてきたが、かまわず身体を移動しそのまま付きを入れ軽く胸をえぐった、そのまま後藤兵助は後ろに思い切り転倒した。薩摩示現流に近い関口流の有無を言わせぬ押し切りの刀法であった。

「まて勝負あった! はいそこまでだ」

 即審判員が、身体を割って止めに入った。

「お見事で御座る、どうもこのめでたき時に無理を頼んだ! これにてお開きにいたしたい、文左衛門どの誠にご苦労様で御座ったのう謹んでお詫びいたします」

ドンドコドン、再び太鼓の音の後、折り詰めと酒を賜り、和歌山城を後にする、これで一気に文左衛門の名が紀州中に広がった。

此処でお断りしておきたい、柳生新陰流といえば名門中の名門であるが、残念だが関口流は紀州藩の者しか知らない流派である、しかし勝負事はきびしく、あっという間に柳生新陰流は、徳川家の第一線から退きました。 宮本武蔵のゆかりの流派が、かっての因縁にいっしを報いた事に成りました。

かって宮本武蔵が江戸柳生館で試合を挑もうとした時、隣に居た人の気配を察しその場を即退き退散した、柳生には裏柳生という忍者集団がいて武蔵は逸れを知ってそれで難を逃れたという一件が有った、柳生の庄忍者の里に近い柳生もやはり忍者集団だったのか。

いかに名門であっても、その時期に名人といわれる剣豪が、出なければ廃れてしまうのである。

紀州藩では関口流をお留め流として重用していた、それは柔術が優れていたからである。刀は三十人程と斬り合うと刃こぼれして斬れなくなる、そんな時関口流は役に立ったからで命を守る最後のものとして重用とされた。

関口流は両方に優れていたので、紀州藩では藩内で奨励されて盛んであったのです、逸れで本当はどうかと再確認の為試合を組まれたので皆注目集めました面目躍如でした。

剣術は鹿島古流で薩摩の示現流が如く凄まじさが有った、それと宮本武蔵の剣の教えもあり侮れば今回の如く一撃で勝負が決する。

また試合当日体調不良もあるのです、若造と侮り其処に油断も生まれまさか負ける筈のない、試合に負ける事も有るのでございます勝負事は中々厳しいものですね。

 帰り加納家に寄り藤林正武どのに礼を述べ裃を返し御礼に、酒と折詰めを心付けに進呈したこの頃紀文は酒は飲めなかったのです。

「でおぬし、その時何も殿様に要求せなんだのか?」

「はい本当は下津の難破船の修理許可と、修理終了後にはその船を私どもに、賜りたいのですが?」

「ではわしから藩に、その胸要請しておいてやろう……それにお主は既に源六君の家来に等しいのだよ!」

「ですが、私は商人の方が合っていますので御座いますが……。」

「ハハそれで良いのだよ今までどうりで、それと紀州藩より武士の名を貰ったそうだね、山本文左衛門だったかそれとも、五十嵐文左衛門だったかな?」

「はいでも私の屋号が紀文ですので、此からは通り名として紀伊国屋文左衛門(紀ノ国屋文左衛門)と名乗ります!」

「そうかぁおぬしの気のすむように、名乗れば良いではないか、これでお主も武士の身分と成った」

この頃厳しい身分制度あり、かよの為にも武士の肩書きは、行く末必要と思ったのである。





























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