第4話

 翌朝、俺は珍しく早起きした。そして奈江が家を出るであろう時間に、奈江の家から駅に至る経路の最初の角を曲がったところでスタンバイしていた。見張りに立ってくれている彰から合図があったとき、俺は武者震いした。


(苦節4ヶ月。ついにこの日がやって来た!)


 はじめはゆっくりと足を動かし、徐々にペースを上げた。そして、俺が角を曲がろうとしたとき、ちょうど奈江も角に差し掛かった。俺たちはぶつかった。


「きゃっ!」


 短い悲鳴をあげる奈江。本当に済まないことをした。折角の食料を無駄にさせたのだから。だが、これも全て、俺自身の欲望という名の心願を成就するための尊き犠牲に過ぎない。許せよ、奈江! そして、食パ……。


「なっ、何でだよっ!」


 茶色くて丸いそれを見たとき、俺は思わず絶句した。そして、次の瞬間には叫んでいた。


「何で、金魚焼なんだよ!」


 一瞬、目を丸くした奈江。金魚焼というのは、大人気のアイドルユニットはねっこが企画・開発した和菓子だ。小麦粉を水で溶いたものを金魚の金型に乗せて焼いたもので、中には甘いあんこが入っている。彰が企みの成功と勘違いして駆け寄って来るのを見て、全てを悟ったようだった。


「バカね。『秋の食パンまつり』って、金魚焼にもシール付いてるのよ!」


 そっ、そんな馬鹿なっ! 食パンまつりだというのに、金魚焼にもシールとは! 俺は思わず天を仰いだ。

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食パンをくわえた美少女と出会い頭にぶつかる方法 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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