五.血の報酬(かんべんして!)

 起き上がり、部屋を出て、建物の中を散策した。それは俺が思ってたよりも多きく、俺が寝ていたような部屋が十数もあり、他にも厨房やら色々な部屋があった。俺の外にも何人か怪我人が収容されていた。殆どはあの人型襲撃の時の怪我らしい。

 ただ、他の人たちは四人部屋とかに雑魚寝状態だったけど。



「目覚めておるか」

 ナドレ様が入ってきて、再び俺を診察してくれた。

「思うたよりも早うに治りたるものよな。これなれば、明日みょうにちには出歩くもよかろう」

「ありがとうございます」

 さっき通りかかった助手(と思ったら、その人も神官で神術医だった。すみません)に訊いたら、ナドレ様は医療の神ミドラ神殿の司祭だとの事。

 とにかく偉い人っぽいので、敬語を使っておこう。っていうかこの世界の言葉にも、敬語は有るんだな。ま、そうとう身分が厳しいみたいだから、当然か。

「あの、俺、怪我に見合わないくらい良い部屋に入れて貰ってませんか?」

 ナドレ様はじろりと睨んできた。

「自覚は無かろうが、汝は此処に運び込まれた時には、息が無かったのだぞ」

「え?」

 俺は止まった。

「あの二人に強く請われ、癒しの術を重ねて掛けた。さすればお前は唐突に息を吹き返したのだ。まあ、今までにも無い事ではないのだがな」

 彼女は緑色の瞳で俺を見つめた。

「お前は一度死したる者。よって他の生者とは別の部屋とした」

 え?

 って事は俺、ゾンビ?

「稀なる生還者であるが故に、我が関心の対象となった」

 ええと、つまり、ゾンビというより、モルモット?


「ナドレ様」

 廊下から、助手らしい人が入ってきた。

「衛士隊の怪我人について、薬代の工面が出来たとの事でございます」

「うむ」

 彼女は立ち上がり、その人と出ていった。


 あ。


 今さら気付く。俺の治療費、どのくらいかかるんだろ。不安になり、枕元に置いてあった自分の服(血だらけでボロボロだった)を探るが、金入れには銅貨が五枚。


 しばらくして戻ってきたナドレ様に聞いてみた。

「高いぞ。多くの生贄を捧げて治癒神術を掛けたからな」

「え」


 生贄。

 俺の脳裏に、どこかで見た風景が浮かぶ。これはアルスの記憶か。

 木につないだ山羊の首に、銀のナイフがあてられ、引かれた。血「うわああ!」


「どうした」

「い、いえ、なんでも」

 俺は動悸を押さえた。ナドレ様はしばらくこちらの様子を見ていたが、

「羊八頭に肉鳥五羽。まあ、十ドモス五ゲインという所か」

 一瞬、どのくらいかピンと来なかった。

 記憶を確認すると……金貨十枚に銀貨五枚!

 そんな金額、神装馬乗りを十五年やっても返せねえよ(記憶によると)!


「心配するな」

 頭が真っ白になった俺に、ナドレ様が穏やかに言う。

「支払いは、ジーナが立て替えたからな」

「え?」

 違う意味で、思考が止まった。

「ミーナも半分持つと言っている」

「あのー」

 俺は恐る恐る尋ねた。

「何だ」

「やっぱり空島で神装鳥乗りとか神装技師とかって、すごく稼ぎが良いんですかね?」

「まあ地上よりはいいな」

 俺はほっとしたが。

「二人でなら、六年で返せるだろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る