第21話 フェリスの願い③
離れた場所からヨルズの決闘を見守ることしかできなかった。
突き抜けるように青い空の下。重い金属が衝突する音と、飛び散る火花に私は息が苦しくなる。それ以外に音は無い。
静寂の中の騒乱……としか表現できなかった。
アリーナで戦う弟を見ても同じ症状になる。呼吸が止まってしまいそうだ。
相手の白い
一方のヨルズは、どことなく腑抜けた印象を受ける。
あれが弟なりの戦い方だということは分かっていてもハラハラしてしまった。
ヨルズは自分をコントロールするのが上手い。緊張すると筋肉が硬直し、血流が悪くなって機敏な動きができなくなる。
それを十分に理解しているからリラックスするように自分の身体へと言い聞かせていた。
そんな態度が普段から染み込んでいるせいで、誰もが彼のことを感情の起伏に乏しくてつまらない人間だと思い込んでいる。
けれど実際は違う。いつだってヨルズは同じ方角を向いていた。
それが復讐だとは知らなかったけど……
その一方で消極的かと思えば虚をつくタイミングで攻勢に切り替える。
まさに変幻自在。どうすれば相手に不意打ちを仕掛けられるか、必死に想像を巡らせて考えていた。
しかし、先程から『ナイン・タイタン』の動きが鈍い。手にしたシールドで『バラル』とかいう白い
あれは相手の大振りを待っているに違いない。
あたしはそう信じた。
けれどいつまで経っても攻撃に転じることができなかった。
考えたくはなかったが、アルベルトとかいうパイロットの腕が良いのは本当である。
そのリズムは正確で、まるでタクトを振る指揮者のようだった。
ヨルズは細かい攻撃に対して防御が漏れている。『ナイン・タイタン』は徐々に後退して岩壁の方へ追い詰められていった。
頭部の屈折水晶を壊されたら視界を失う。それだけは避けるように懸命に防御しているようだ。
その一方では装甲と装甲の隙間を狙った剣撃に対しては小刻みに腕や肩を動かすことで致命傷を回避している。
(ヨルズの言ってたことは本当だ。こいつ、強い……)
アルベルトからは信じられないほどの集中力と我慢強さが感じ取れた。
焦れていない。これだけ巧みに防がれていても心は揺れていなかった。
1度は『バラル』との試合を見ている。そのとき、ヨルズは奇襲に徹した。
堂々と構える相手にナイフを投げつけて怯ませ(普通のアリーナの戦いではそんなことしない。武器を失うからだ)、上に意識を集中させた隙に脚の関節を破壊して跪かせたのである。
今思えばあれは1回限りの有効打だったのかもしれない。
同じ不意打ちは2度も使えないだろう。有利に立つ方法が無かったヨルズは消耗戦を選んだに違いない。
皮肉にも、アルベルトは敗北から成長してしまっている。
相手の心を削り取ってからでないと勝ちは見えてこないのだろう。
『フェリス、聞こえていますか?』
地面に置いた無線機にノイズ混じりの通信が入る。
スナイパーに対処すべく飛び出していったラインヒルデからだ。
どういうわけか彼女はあたしに対して丁寧な言葉を使う。
目上の者を云々という理由をそのまま鵜呑みにはしていない。何か別の理由がある気がする。
「大丈夫、聞こえている」
『敵の狙撃手は戦闘不能にしました。そちらの様子はどうです?』
「ヨルズが苦戦している」
『そうですか……私が加勢しましょうか?』
こういうとき、あたしの能力は便利だ。
ラインヒルデからは敵意や悪意を感じない。出会ってまだ1日しか経っていないが味方だと判断できる。
もし、ここで彼女を信用できなければヨルズは2機の
「加勢はダメ。これはヨルズが受けた決闘だもの」
『命には替えられません』
「邪魔したらヨルズは、ヨルズじゃなくなる」
『……了解しました。では、すぐに戻ります』
あぁ、どうして矛盾してしまうのだろう。
ここはアリーナではない。
そんな審判はいないのだから、負ければ殺されてしまうかもしれない。
ヨルズは、ヨルズの本懐を成し遂げるまで死ねない筈だ。
こんなところで立ち止まる奴じゃない。
あたしは通信機を通さず大声を上げる。
喉が潰れても構わなかった。
いつもそうしていたように、あいつに精一杯のエールを送る!
「勝てッっ! ヨルズっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます