第14話 アルベルトの矜持②
揺れるクルマの中では眠れない。だからモルビディオ廃坑よりも手前で僕たちの一行はキャンプを張った。
憎きヨルズ・レイ・ノーランドに追いつけたとしても、体調を整えない状態では決闘などできない。まずは食事と睡眠が必要である。
我が愛機『バラル』を積み込んだトレーラーが1台、護衛用の
野営地が襲撃を受けたのは深夜である。敵の最初の攻撃により護衛用の
残ったトレーラーも駆動系を狙われて動けなくなるが『バラル』の発進が辛うじて間に合い、僕は賊を討った。
襲ってきたのは全高が低くて頭部の無い
パイプフレームだけで覆われた剥き出しのコックピットは防御力ゼロに等しい。
元来であれば武器など無い筈だが、右腕を丸ごとライフルに付け替える改造が施されていた。
あれは確か……ST8というモデルである。
火器厳禁のアリーナでは絶対にお目にかかれない代物だが、カタログで見たことがあった。
敵は見るからにバランスが悪く、真っ直ぐ歩くことすらできないような状態だ。『バラル』の敵ではない。
しかし火力だけは十分だったため、僕たちの一行は手痛いダメージを喰らってしまう。
少なくとも明日の朝には出発できない。太陽が登ったら、車両のチェックからしなければならなかった。
いや、死者が出なかっただけ幸いということにしておこう。
敵は仰向けに倒れて動かない。歪んだフレームに挟まれたパイロットは辛うじて息をしていたが、もう長くないだろう。賊は枯れた老人だった。
僕はコックピットから降りて、不細工な
見下ろすと月明かりに照らされ、皺だらけの顔が笑っていた。
「ここを……通りたければ……ひとり10,000グレイルじゃ……な」
「下賤の者め。何故、僕たちを襲った?」
「墓参りの邪魔は……させんよ。あぁ、そうだ……とも。借りは返し……た」
「一体、何の話をしている?」
「憎き共和国。大尉殿……そして帝国に栄光あ……れ……」
破片が身体のあちこちに刺さっていた。血だらけである。
喋っている内容も意味不明ときた。やがて小さく上下していた胸も動かなくなる。
僕は興味を失って『バラル』の元へと戻った。
あの工作用のものとは大違いで、神々しさすらある。やはり
「アルベルト坊っちゃま、ご無事でしたか……」
顔面を蒼白にして爺やが走ってきた。無理をして息を切らせている。
襲撃に反応し、リムジンから飛び降りた僕のことが心配だったのだろう。
「護衛用は何をしていた? 後から積み込んだ大きな武器コンテナは飾りか?」
念のためと積み込んでいた余剰分の武器コンテナが邪魔で、護衛用の
もしも僕が指を咥えて見ていただけなら、立ち上がる間も無くST8の餌食になっていただろう。
「即応できず申し訳ございません。私めが余計な心配をして積荷を増やしたばかりに……しかし、お見事な腕前でした」
「圧勝だっただろう」
「はい。圧勝でございました。どうやら賊はこちらの足止めを狙っていたようです。全く意図は分かりませんが」
「ふん。こんな不細工な
「相当な手練れでした」
「2度目だぞ、僕の圧勝だ」
「そうですが……
珍しく爺やから焦燥を感じる。
いや、動揺か。とにかく普段ではこんな態度はとらない。
命が危険に晒されて興奮しているようにも思えた。
それとも余分な荷物を持ってきたことに責任を感じているのだろうか。
「見たところトリガーは操縦桿に直結、右腕の武器も急場凌ぎのボルト固定。数時間の突貫作業で作ったのしょう。それでも暴れる銃身を押さえ込んで、我々の車列に弾を放り込んできました」
「勝ったのは僕だ」
「申し訳ございません。その通りでございます」
何が言いたいのだ。
くたばった賊に送る視線が妙に哀愁を帯びている。
「もしかして、爺やの知り合いか?」
「いえ、違います。ただ……懐かしい臭いがしました」
「こんな薄汚い老いぼれに感傷的になる意味が分からん」
「……」
邪魔が入って気分が悪い。
戦闘で昂ぶってしまったので眠れないだろう。
「後の処理は任せる。ヨルズ・レイ・ノーランドに決闘を挑めるように体勢を立て直せ」
「畏まりました、アルベルト坊ちゃん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます