6/5 実を避けて虚を撃つ(訳:行ってらっしゃいませ、ご主人様)


「それじゃあ行ってくるね」


 玄関で靴を履いていると、レオが近づいてくる。

 見送りに来てくれたのかな。


「……? 何?」

 じーっとこちらを見ている。


「前はいつも『行ってきますのキス』をしていたではないか」

「ぶっ!!!」

 くそっ、真顔で何を言っているんだこいつ!

 確かに一時期やってたよ。

 学校に行く前にレオを見かけたら無理やり捕まえてキスしてたけど。


 嫌がらせか!?

 実は反応を見て楽しんでいるのか!?

 なんてちょっとだけ思ったけど、多分そんなことは無いのだろう。

 レオは猫のくせに素直だし、比べて私は天の邪鬼なのだ。


「ん」

 レオは両腕を広げて抱擁待ちのポーズ。

 男女の立場逆じゃない?

 なんか私に姉御肌を求められているような気がするけど、これでもか弱い乙女だよ?


「はぁ……」

 観念した。

 私はレオの頭を掴んで、ぐっと押し下げる。


「おっ!?」

 目を丸くしているレオの額にそっと唇を当てる。

「――はいっ! これで良いでしょ!? も、もう。急いでるんだからねっ! 猫の額ほど狭いところで何やらせるのよっ!」

 私は早口でまくし立てる。

 自分でも何言ってるのかよくわからない。


 とても素直に、すごく嬉しそうな笑顔を向けてくる。

 ダメ、それに弱いの。

「確かに冒険の書に書きまとめておいたぞ。では、行くが良い」

「お前が王様かよ」

 急に平常心に戻った。


 玄関の向こうはなんの変哲もない日常で。

 でも、確かにこれもまた、私の新たな日常なのだ。


「これからは毎日、魚肉ソーセージ買わなきゃな……」


 そんな、日常。

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猫だって中二病したい! -私のもとに現れたのは、人の姿をした飼い猫でした- いずも @tizumo

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