第27話嘘でしよ

ロビーで夢を見つけた。ブツブツ独り言を言ったあとに誰かと電話をしているみたいだった。何となく耳に入った会話に私は衝撃を受けた。だって夕と別れるように仕向けたのは夢だった。でもどうして?

夢は西園財閥とは関係ないはずなのに。

嘘だって言ってよ!

親友にそんなことするはずない!って言って!お願い!

気がつけば私は夕の元へと駆け出した。

伝えないとそうじゃないと花さんが危ない!

会場に戻るなり私は夕に近づいて開口一番

「手術費用を負担してくれた西園財閥には私が頼んだの。でも夕が花さんと結婚したから花さんを潰すって言ってる」と言った。

「何言ってんだよ。優希奈」

「この人が優希奈さん?」

「あっあぁ」

「夕が剣道を諦められないって知って大和くんに手術すればできるようになるって聞いて費用を負担してくれる人を探してたら西園財閥が負担してくれるって。でも私と夕が別れないと負担しないって言ったから。・・・だから」

「だから別れようって言ったのか?」

「・・・・・・・・・うん」

「馬鹿野郎!俺はそんなこと望んでねーよ!俺は剣道出来なくてもお前がいてくれればそれでよかったんだよ!俺は俺は」

「分かってる!でも夕には剣道やって欲しかったの!剣道やってるとこ見たかったの!また中学の時の合宿の時みたいな笑顔を見たかったの!」

「お前なんで知ってるんだよ。合宿のこと」

「私ホントはあの合宿に参加してたの。全然話さなかったから覚えてないと思うけど」

「・・・そうだったのか。そんなに前から出会ってたのか」

「そうだよ。あの合宿で出会ったあの日からずっと夕のことが好きでした。振ってからもずっとずっと好きで大好きで会いたくてたまらなかった」

「優希奈」

「ごめんね。今日はもう帰るね。奥さんもいるのに変な事言ってごめんね」

私は泣きそうになるのを堪えて会場を出た。

なんとなく立寄った公園で人目もはばからず泣き崩れた。笑われようが指さされようがもうどうでもよかった。

遅すぎた。もっと早く伝えればよかった。大好きだって。愛してるって。今更伝えたって彼はもう結婚したんだ。もう何もかもが遅いんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る