泉翔也の視点5

 僕は数字の暗号に導かれるままに進み、とあるアパートの部屋に辿り着いた。203。赤い字でドアに大きく書いてある。僕はそれも気にせずに、勢い良くドアを開ける。散らかった部屋が視界に飛び込む。倒れたタンス。割れたパソコン。散乱する本と衣服。所々に焦げ痕とオレンジの染み。そして、その中央に、一冊のノート。僕はそれに引き寄せられるように近寄り、なんの躊躇もなくページをめくった。中には沢山の名前が記入してある。一番上には時乃アズサ、一番下には佐藤小夜と書いてある。僕は、息を呑んで次のページを開く。


 …すべてを読み終わり、ふっとため息をつく。始点がどうとか、よく分からない話ばかりだ。僕はそれを写真に撮ってSNSにアップする。


『よく分からない日記と、あとはシールだけです』


 打ち込んだそのコメントを凝視して返信を待つ。頼む。誰か、誰か、嘘だと言ってくれ。僕は、一生このままか?夢も、希望も、置いてけぼりにしたままで、残りの余生60数年をずっと一人で暮らすのか。誰とも話すことはなく、何も得ることはなく。お願いだ。頼む。誰か、返信してくれ。返信してくれ。僕に、安心を分けてくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る