泉翔也の視点3

 目が、唐突に覚めた。ワスレナグサが揺れている。倒れている薬局の象のモニュメントが可愛らしい。昨日は歩き回ったのでかなり疲れていたんだろう。惰眠を貪り尽くしたようで、太陽は既に真上だ。

 ゆっくりと腰を上げる。どうやら、まだこの世界に一人ぼっちらしい。SNSを開き、情報を得ながら歩く。特に取り立てて役立ちそうな情報はない……?

 とあるコメントが目に飛び込んできた。それは、スクロールを続ける指を止めるのに十分すぎるものだった。


『これもしかして関係してね?1977年7月25日にボクサーの田中康平が練習中にいきなり消えてそのまま行方不明。1999年7月25日に佐藤小夜が行方不明。コメ主の最初のツイートも2019年7月25日』


 その返信はさらに続いていた。


『全員、7月25日に失踪。まだ共通点はある。それは、全員『突然』消えたこと。田中康平はさっき書いたとおり、スパーリングしていたらいきなり消えた。佐藤小夜は帰宅時に乗っていたタクシーから突然消えたらしい。それと、もう一つ』


 ちょっと待て。ちょっと待て。


『全員、身近な人間が失踪後に記憶を失っている。ご丁寧に、失踪した人間の記憶だけごっそり消えてる。まるで最初からいなかったみたいに。だから、この事件は、『突然失踪事件』として掲示板でよく考察されてる。最近、ツイ主の親から連絡はあったか?ツイ主の親は、もうお前のことなんて忘れてるかもしれないぞ』


 翔也は、無機質な空間に一人棒立ちになった。冷や汗が耳を沿って顎に垂れ落ちる。困惑。ただ、困惑。

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