ブランズウィッチの吸血鬼

新巻へもん

第1話 依頼

 ブブブ。


 眠りに落ちそうな微妙な瞬間にあなたのスマートフォンが振動する。まったく誰だよこんな時間に? 枕から頭をあげて手を伸ばしスマートフォンをつかむ。これは私物ではなく支給品のスマートフォンだ。その瞬間眠気が飛ぶ。頭を振りはっきりさせると通話のボタンを押した。


 通話口から微妙なタイムラグを置いて英語が流れてくる。

「こんにちは。いや、こんばんはと言うべきかな。仕事だ。イギリスに飛んでくれ」

「どうして俺に?」

 あなたは問い返す。別に仕事が嫌ってわけじゃない。むしろ初仕事に胸が高鳴る。純粋にルーキーに回ってきた理由が知りたいためだ。


「先月のレッジョ・カラーブリアの事件のことは聞いているだろう。優秀なエージェントが多数重傷を負ってね。現在加療中だ。復帰には1カ月かかるだろう。今回のイギリスの件は、まだ事件にはなっていない。数日後にはを送ることになっている。それまで無理のない範囲で調査を行って欲しい」


 あなたは理解する。これは卒業試験を兼ねた実地調査だと。吸血鬼ハンターとしての訓練を受けたあなたが独り立ちできるか問われているのだ。

「指示は所定の手続きに則って行う。それでは幸運を」

 電話の相手はあなたの返事を聞かずに電話を切った。この商売、ルーキーに拒否権などはない。


 世間は吸血鬼が本当に実在していることも、そして吸血鬼ハンターが安全を担っていることも知らなかった。あなたは慌ただしく支度をする。普段はダミー企業で機械の保守要員として働いているが、会社の上層部はあなたの本当の仕事を知っているので、そちら方面の心配はしなくていい。持っていく荷物のセレクトをする。寝室の金庫からいくつかの装備を取り出した。


 コルト・ダブルバレル・エアスペシャル。小ぶりだが強力な2連発の拳銃だ。圧縮空気で発射するため静音性は高い。銀の弾丸が2発装填されている。弾丸はダムダム弾仕様だ。命中すると速やかに体内で爆散し吸血鬼の細胞に治癒不能な傷をもたらすことができる。


 無銘だが切れ味鋭い脇差一振り。今までの戦いで吸血鬼に切り付けた際に、その高い再生能力を阻害することは証明済み。別名鬼切りと称される刀には遠く及ばないものの慣れた者の手にかかれば心強い相棒となる。


 出雲大社のお守り。白絹に銀糸で縫い取りがされている。一般に手に入るものとは異なり、この仕事に就く際に支給されたものだ。首から金属性の鎖で下げられるようになっていた。


 あなたはどれを持っていく? 何点でも選ぶことがができる。あなたはアタッシェケースに選んだものを詰め、支給品のクレリックシャツに袖を通し、家を出ると迎えの車に乗った。時刻は23時43分。指定されたヒースロー行きの最終便には十分間に合うはずだ。バックシートに背中を預けるとあなたは夢の続きに戻る。寝れるときに寝ておくのがこの業界の鉄則だった。


 ⇒第101話に進むhttps://kakuyomu.jp/works/1177354054890935249/episodes/1177354054890936198


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