第20話 暇な仕事、という後ろめたくもおいしい仕事

 クラマと俺たちが受けた依頼は調査。まあクラマと俺たちが接触するためにキニゴスが用意した依頼ではあるけど、実際ハンターの受ける依頼の大半は街周辺の調査か大外壁の警備で、アクイと戦った時のような討伐依頼は数としては多くないようだ。

 

 「平和やなァ……。こないだライコウと行った時にじぶんらで大分倒したんやって?」

 

 隣を歩くクラマが変わらず機嫌良さそうな声で聞いてくる。俺より頭一つ分は背が高いクラマからの視線は自然と見下ろしているけど、常に弧を描く目許のせいか威圧感とか嫌な感じはない。

 

 馴れ馴れしくはあるけど。

 

 「そうですね、そもそも大分というほどの数もいなかったのですが」

 

 一歩後ろを歩くシレーネちゃんがそう言うと、視線だけを一度後ろへ向けたクラマが口の中で小さく「へェ」と呟く。

 

 「その上でライコウの索敵能力で隠れている魔獣も見つけたからな、この辺りは今はかなり安全じゃないかな」

 「ライコウはさすがの鋭さやなァ。オレやとそうはいかんわ」

 「そういえば、クラマはどんな天技を? 一応俺は金属の天技で接近戦ができて、シレーネちゃんは天術が使える」

 

 話の流れで一応クラマの能力を尋ねてみたものの、実は俺たちは事前にキニゴスから聞いて知ってはいた。身体能力を強化する天技で俺と同じように徒手空拳で戦うらしい。

 

 まあ、こういったところで小さな嘘や誤魔化しをするかどうかで信頼度合いを推し測ろうという考えだ。

 

 「あァ、オレは加護の詳細は分からんけど、なんかこう強ォなるんや。ほんで殴ったり蹴ったりする」

 「そか……」

 

 思わず脱力してしまう程雑な説明だったけど、嘘はつかなかったようだ。

 

 

 

 しかし実際にそのクラマの強くなる能力を見る機会はなく、結局一度も魔獣に遭遇することなく調査を終えることとなった。

 

 「うん、まあ平和でいいことだな」

 

 以前アーセルから聞いたことだけど、実際街周辺の調査依頼で全く遭遇無しというのは珍しいという程の事でもないらしい。最近は魔獣が増えてきたという事情もあって遭遇することの方が多くなっているらしくはあるけど、それこそ何年か前なら街近辺で戦闘になる方が驚くくらいだったということだ。

 

 それに今回に関していえば、あくまで本当の目的であるクラマの調査としてはもう数日ある訳だし初日としては問題ない。

 

 「なァ、思ったより早ォ終わったし、街で一緒にメシでも喰わん?」

 「ん? そうだな……、うん、そうしようか。ちょうどいい時間だし」

 

 早朝から調査に出ていたこともあって、まだ日は頂点を過ぎたばかりだ。ハンターとしての仕事を離れて話してみるのも調査に有益そうだし、ここは素直に付き合うことにしよう。

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