突発的な短編集

石動 橋

わたしの見えないヒーロー

 夏の暑い日のこと。

 俺、佐々木健太郎は街中で道行く人々を観察していた。

 夜中でも蒸し暑いコンクリートジャングルを歩く彼ないし彼女らは、俺の視線に気づくことなく日常を謳歌している。

 それもそのはずだ。

 俺はすでに、この世にいないのだから。

 今年の初め頃、俺はこの街路で交通事故にあって死んだ。

 別に子供をかばったとか、愛する人を守るためにとか、そんな理由ではない。

 単純に、俺がぼうっと歩いていたらそこにブレーキが利かなかった車が突っ込んできたからだ。

 まだ20年程度しか生きてなかったのに、真実を知ったときは愕然としたものだった。

 それ以降ずっと、俺はここにいる。

 地縛霊というわけではないらしく、このあたりを散歩がてら歩いてみたら、いろいろと移動することができることがわかった。

 とはいえ、神社や教会には入ることはできなかった。

 やっぱり神聖な場所には行くことはできないらしい。この辺は想像通りだった。

 そして映画などでよく見る、部屋を大きく揺らせたりラップ音を出したりといった、所謂『怪現象』と呼ばれるやつは俺にはできなかった。

 せいぜいが夢に出るしかできないらしい。そんな一見して地味なことしかできなかった。

 実際、初めてこの能力を使ってみたときなんて、夢なんて覚えてる人がいるかどうかわからないだろう、なんて思ったものだ。

 そんな己の状況に若干気落ちしていると、ふと視線を感じた。

 振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。

 まだ10歳前後であろうTシャツにスカート姿の少女が、じっとこちらを見つめていた。

 念のために少女の視線の先である俺の背後に目を向けると、そこには誰もいない。

 そして少女に軽く手を振ると、少女は嬉しそうに手を振り返してきた。

 その瞬間、俺は理解した。

 この少女は、俺が見えている。

「や、やあ」

 遠慮がちに彼女に話しかける。他人から見れば今の俺は不審者に映るかもしれないが、それ以上に、自分が見えているかもしれない人と会えたことが、ただただ嬉しかった。

「こんばんは、お兄さん!」

 元気よく答える少女の挨拶に、俺は軽く感動を覚えた。

「はじめまして。俺は佐々木。君は、なんていう名前なの?」

「まいのこと? まいは岸和田まいって言います! 10歳です!」

 天真爛漫に名乗る彼女に、俺は再び感動を覚えた。

 見た目からしてかわいらしい少女と話せたというのは、案外嬉しいものだ。

 そして何より、俺の死後、天涯孤独とまではいかなくとも、まともに人と話したのは初めてだった。

 人外の知り合いなら、いくらかできてしまったのだが。

 そこでふと我に返り、周囲を見回した。

 今まで意識していなかったが、通行人の若干名が少女をいぶかし気に見つめている。

 よくよく考えれば、一般人から見れば、一人の少女が突然挨拶しだしたように見えることだろう。

「ちょ、ちょっとまいちゃん、場所変えようか」

「? うん。わかった!」

 少しキョトンとしたが、やはり元気に返事をした少女は、俺の後についてきた。

 自分で呼びかけてなんだが、この子の親はどういう教育をしているんだろうか。こんな時間に、しかも知らない人に簡単についてくるような子どもは、将来が不安になる。




 俺は先程いた場所から少し離れた公園に移動した。

 人通りは少なく、簡単にまいちゃんが補導されるはないだろう。

「さて、まいちゃん」

 適当なベンチに腰を下ろした俺は、まいちゃんに視線をむける。

 そして、厳しい目で彼女を見た。

「ダメでしょ、こんな時間にお外に出歩いてちゃあ!」

 そう言って公園の大きな時計を指さした。

 時刻はそろそろ深夜に差し掛かろうという頃だ。子どもは出歩いていい時間ではない。

「こんな時間に出歩いて、悪い大人に誘拐されたらどうするんだ! 親御さんも心配するだろう!?」

 大人げなく声を荒げてまなちゃんを叱る。

 かなり厳しいことを言うが、彼女が心配になってのことだった。

「……っ!?」

 それを聞いたまなちゃんは、一瞬驚いたような顔をして、顔をうつむける。

 そして、

「……大丈夫だよ!」

 先程見せたような笑顔を向けた。

「……?」

 俺は彼女の反応に、疑問符が浮かぶ。

「何が大丈夫なんだい?」

「あのね、まいのお家、今誰もいないの。それに、お母さん、まいがおそくまでお外にいても、何も言わないんだよ。だから、まいはここにいるの」

 爛漫に答える彼女に、俺は絶句していた。

 この子、ネグレクト受けてるじゃないか。

 思えば、こんな子どもが一人で人混みにいること自体おかしいのだ。

 おそらく、仕事かなんかでこの子にかまってる時間がないんだろう。だとしても、こんなことを続けていても、この子がろくな大人にならない。

「……それでもだ。やっぱりまいちゃんみたいな小さな子がこんな時間にいていいわけがない。今日は帰りなさい」

 そういうと、まいちゃんはうつむいてしまった。

 それに対して、俺は、

「……お母さんが帰ってくるまで、一緒にいてあげるから」

 と言った。

「……!? 本当!?」

「ああ、本当さ。まいちゃんがよければ、だけど」

 そう言うと、まいちゃんは嬉しそうな笑顔を見せた。

 いくらなんでも、こんな小さな子が一人でいることがわかっているのに、そのまま放っておくことが俺にはできなかった。

 そして、こうも思った。

 俺、死んでてよかった。普通なら今頃警察に通報されていることだろう。




 公園からどれくらい歩いただろうか。とある一軒のマンションについた。

 家族世帯でも生活できるほど広々とした空間はしかし、家主の心象を反映しているのか、少しすさんでいた。

 床こそ散らかっていないものの、水場には未だ洗われていない食器が山積みとなり、ダイニングのテーブルの上にはビール缶が放置され、そのままになっていた。

「こっち、まいのへや!」

 そう言って自分の部屋を指さして案内してくれるまいちゃん。あまり人が自分の部屋に入ることがないからだろうか、とても嬉しそうに見える。

 まいちゃんの部屋に入った俺の感想は、異世界みたいだな、だった。

 リビングの荒れようとは異なり、きれいに整理整頓されたこの部屋は、親子が一緒に生活しているのにここまで違うのかと思った。

「これ、まいのたからもの!」

 そう言って、まいちゃんはベッドに置いてあったくまのぬいぐるみを差し出した。

「かわいいくまさんだね」

「うん! お母さんが前に買ってくれたんだ!」

 嬉しそうに話すまいちゃん。

 余程母親のことが好きなのだろう。

 ……あんな仕打ちを受けているのに。

「まいちゃん、お母さんのこと、好き?」

 まいちゃんに聞く。

「うん、お母さんのこと、大好き!」

 相変わらず屈託ない笑顔で話すまいちゃんに、俺は続けて質問する。

「……お母さんに、放っておかれてるのに?」

「……」

 一瞬、まいちゃんが初めて暗い顔をした。

 しかし、

「うん、それでも、お母さんが好き!」

 嬉しそうに笑うまいちゃん。

 しかしその顔を見た俺は我慢ができなくなった。

「なんでそんなに笑ってられるんだよ!」

 まいちゃんがビクリと震える。

「お母さんが相手にしてくれないんだぞ! ずっと放っておかれてんだぞ! それなのに、なんで笑ってられてんだよ!」

 息を切らせながら叫んだ。

 黙っていられなかった。

 こんな年端もいかない少女が自分の親から見放されていることが、我慢できなかった。

 死ぬ前の俺は、両親とうまくいっていないわけではなかった。

 確かに衝突することもあったが、そこには確かに、俺への愛があった。

 だからこそ、目の前の少女が親からひどい目にあっていることが辛かったのだ。

「……」

 まいちゃんは再度うつむく。心なしか、肩が震えているように見えた。

「……だって」

 まいちゃんが目元に雫を浮かべながらの笑顔で言う。

「笑ってるときは、お母さん、まいの方を見てくれるんだよ。どんなにお母さんが怒った顔でいても、まいが笑ってるときはまいのこと見てくれるんだもん。だから、まいはいつでも笑ってるんだよ。お母さんが、まいのこと見てくれるように」

「……」

 俺は今度こそ、言葉が出なかった。

 まいちゃんは、ずっと苦しんでいたんだ。

 母親が自分のことを相手にしてくれるときは、唯一自分が笑っているときだけ。

 その時が一番、自分が幸せに感じられる時だから、母親に相手にしてもらえる時だから、常に笑っていたのだ。

 そしていつしか、いつも笑っているようになったのだ。

 なんて健気で、そして儚い女の子なのだろうか。

「……まいちゃん」

 俺がまいちゃんに口を開いた。

 その時、玄関の鍵が開く。

「あっ、お母さんだ!」

 そう言って一目散に駆けていくまいちゃん。

「……あっ、待って」

 そう言い終わる頃には、まいちゃんは部屋を飛び出していた。

 なんだか、嫌な予感がした。

 


「おかえり、お母さん!」

 笑顔のまいちゃんの先には、妙齢の女性が立っていた。

 眉間にしわを寄せたその女性はなるほど、まいちゃんが成長したら同じような相貌になるのだろうかと想像できる。

 願わくば、まいちゃんにはそんな怖い顔になってほしくはないが。

「ねえ、お母さん、今日ね」

 まいちゃんが話しかける。

 しかし、その横をこの女は何事もないようにすり抜けた。

「……え?」

 俺の口から言葉が漏れた。

 実の娘を無視して通り過ぎたこの女は、そのままリビングの椅子に腰かけた。

「お、お母さん、あのね……」

 まいちゃんからも若干の戸惑いが伺える。

 そんなまいちゃんが恐る恐る手を伸ばした。

 しかし、

 パシッ!

 と乾いた音が響いた。

 それはまさに、まいちゃんの伸ばした手が母親によって振り払われた音だった。

「……は?」

 俺は目の前の光景が信じられなかった。

 今、目の前の女は何をした?

 自分の娘を、拒絶したのか?

 そう考えると、頭が怒りでどうにかなりそうだった。

「……」

 思い切り拳を握りこむ。

 怒りで震える拳をそのまま振り上げた俺は、

「……このっ!」

 椅子に座る女に振り下ろした。

 しかし、その手はそのまますり抜けた。

「……!?」

 俺は完全に忘れていた。

 俺は、死んでいるんだ。

 どれだけ怒りを覚えようが、どれだけ足掻こうが、今の俺は何も干渉できない。

 死者は、無力だ。

「……くそっ!」

 思い切り歯噛みする。

 今の俺にできるのは、それだけだった。

「……行こう?」

 俺が悔しさを噛み締めていると、いつの間にか近寄ってきていたまいちゃんが手を引こうとしていた。

 先程のまでの元気な様子はなく、どこかあきらめたような雰囲気がにじみ出ていた。

「……うん、そうだね」

 精一杯絞り出した声を出すと、俺達は部屋へと戻った。



「お母さん、いつもあんななの」

 部屋に入ったまいちゃんは言った。

「お母さん、いつもお仕事から帰ってきたらあんなんなんだ。こわい顔して、まいのお話聞いてくれないの」

 悲しそうに言うまいちゃん。

 この子のこんな顔は、見たくなかった。

「ねえ」

 まいちゃんが聞く。

「まい、いらない子なのかな……。お母さん、まいのこときらいなのかな……」

「そんなことない!」

 俺は叫んで、まいちゃんを抱きしめた。

「まいちゃんはいらない子なんかじゃない! だって、まいちゃんは俺に話しかけてくれたじゃないか! それまで死んでから一人だった俺に、話しかけてくれたじゃないか! そんないい子なんだから、いらない子なんかじゃない!」

 抱きしめた手に力がこもる。

 実際に触れることはできないが、精一杯の力を込めて抱きしめた。

 そのおかげかわからないが、決意が固まった。

「俺が何とかする」

 そう、宣言した。

「まいちゃんとお母さんが仲良くできるように、俺が何とかする」

まいちゃんから離れて、両手を肩に置く。

「だから、そんな悲しい顔しないで、さっきみたいな笑顔を見せてよ、ね?」

「……」

 まいちゃんはしばらく呆けていた。

 そして、

「……うぅ」

 目に涙を浮かべ、

「……うぇーーーーーーーん!」

 その場で泣き崩れてしまった。

「……おいおい、笑顔を見せてって言ったのに」

 そう言って俺は、苦笑いを浮かべた。



 まいの母親、岸和田真子は苦しんでいた。

 できちゃった結婚で生まれた自身の娘であるまいのことは、子育て開始当初、本当に愛していた。

 しかし、それとは裏腹に疲労だけは溜まっていった。

 面倒ばかりかける年齢の子どもの育児に生活を維持するための仕事。

 それらは次第に、彼女の精神を次第に蝕んでいった。

 そしてトリガーとなったのは、夫の死だった。

 愛する夫に先立たれた彼女は、すべてが嫌になった。

 どれだけやっても報われない。

 手間と徒労だけだ増えていくことに、何の意味があるのだろうか。

 そう思った瞬間、目の前の我が子が憎くなった。

 どんな時でも天真爛漫な我が子の笑顔が、この上なく目障りとなった。

 だから、空気と同じ扱いをするようになった。

 最低限の衣食住さえしていれば、近所から通報されることはない。

 あとはどうなろうが、知ったことではない。

 それ以降の生活は、精神的にだいぶ楽になった。

 今回のようにたまに娘の方から近寄って来る時があるが、手痛くあしらえば諦めてどこかへ行ってくれる。

 ただ、さっき部屋に行ったとき、誰かに話しかけてたように見えたのは気のせいだろうか。

 今更母親面してることから我に返り、かぶりを振って床についた。

 布団に潜り込んでしばらくした時だった。

 いつもと、何か違う。

 蒸し暑い夜だったため、エアコンをかけていたが、それ以上に肌寒い。

 あまりにも寒いため、目を覚ました。

 その時、彼女は目の前の光景に戦慄した。

 誰か、いる。

 暗くて顔はわからないが、身長は平均的な成人男性ほどの男が彼女を見下ろしている。

「……ひぃ」

 彼女の口から悲鳴が漏れる。

 しかし、体を動かそうにも動かない。

「なんだ、金縛りで動けないのか? それなら手間がかからなくていいけどな」

 そう言うと目の前の男は彼女に近づき、胸倉を掴み、眼前まで持ち上げた。

「俺が言いたいことはただ一つだ。まいちゃんを、泣かせるな」

「……!?」

 突如、目の前の男から娘の名前が出たことに驚く。

「あの子は俺の恩人だ。俺はあの子に救われた。そんなあの子を泣かせるなら、いつだって俺は、化けて出てやる」

「……!?」

 胸倉を掴む腕の力が強くなる。

 もはや呼吸困難で窒息してしまいそうだ。

「いいな、忘れるな。あの子を、泣かせるな」

 そう言って男は、真子を叩きつけるように突き飛ばした。

 後頭部に衝撃が来ることを覚悟し、思い切り眼をつぶる真子。

 そして、

「……っ!?」

 目を覚ました。

「……はぁ、はぁ」

呼吸をして、息を整える。

 多少の頭痛までしてくる。

 嫌な夢だ。

「……」

 いや、本当に夢か?

 そんな疑問が頭をよぎる。

 単なる夢にしてはリアルすぎる。

 少なくとも、あの夢に出てきたのは、今まで自分が寝ていたこの部屋だった。

 なら、あれが夢でなかったとしたら?

「……っ!」

 そう考えた瞬間、一瞬で冷や汗が噴出した。

 その瞬間、

「お母さん?」

「……!?」

 娘のまながこちらを心配そうにのぞき込んできていた。

 昨夜のこともあって警戒しているのだろう、部屋には入ってこない。

「大丈夫、お母さん?」

 心配そうに声をかけるまな。

 真子はいつものように無視しようかと思ったが、ふと、あの夢の出来事が蘇った。

『まなちゃんを、泣かせるな』

 あの男が、再びやってくるかもしれない。

 そう考えただけでも、彼女が恐怖するには十分だった。

「お母さん?」

 再度、声をかけてくるまな。

「……」

 反応しようかしまいか。

 真子はしばらく悩み、

 そして、

「……大丈夫よ、まな」

 口を開いた。

「……!」

 まなはその瞬間、信じられないものを見たように目を見開いた。

「……その、今までごめんなさいね、まな」

 そして、母親からのこの言葉を聞いた瞬間、

「……う、うぅ」

 涙ぐんだまなは、

「……おかあさーーーーーーーーーん!!」

 思い切り泣きながら母親の胸に飛び込んだ。

 泣き止む気配を見せない自分の娘を抱き留めながら、真子は、

「……まな、あんた、背伸びた?」

 と、呟いた。



 あれから、随分と年月が流れた。

 俺、佐々木健太郎からしてみれば時間の経過なんて関係ないも同じだが、いまだに成仏せずにここに留まっているのも変な話だな、と今更思う。

 まなちゃんのことは、今でも覚えている。

 あの後、俺はまなちゃんの母親に夢で『メッセージ』を伝えた後、少なくとも朝まではまなちゃんを見守っていた。母親とまなちゃんの様子を見届けた後、足早にその場を去ったけど。せっかくの親子の感動の場面に居合わせるのは野暮な気がした、というのが主な理由だった。

 それからしばらくして様子を見に行くと、まなちゃんの家はもぬけの殻になっていた。どうやら引っ越したらしい。

 以降、まなちゃんに会うことはなかった。何しろ、どこにいるかもわからないのだから探しようがない。

 そこから先は、何の気なく日々を暮らしている。死んでいるのだから違和感が凄い表現だが、それ以外にいい表現が思い浮かばない。

 変な知り合いや友人ができたが、人間の友人はできなかった。人外の友人は何人かできたのだが、喜ぶべきか悲しむべきか、いまだに悩むところだ。

 だが、これでいい。

 幽霊たる俺としては、俺の死んだ事故現場にいるのが相応しい。

 さてと、今日はどこをうろつこうか。

 そう思っていると、

「……あ、あの!」

 背後から声をかけられた。

 振り返ると、一人の少女がいた。

 女子高生くらいの少女が、こちらを真っ直ぐにに見つめていた。

 まさか、この子も俺が見えているのか?

 ん? でも、この子、どこかで……。

「よかった、ここにいたんですね」

 そう言って安堵する少女に、俺は目を疑った。

「あれから、結構探したんですよ」

 嘘だ。まさか。

「お兄さんが、佐々木さんが死んでいた幽霊だったなんて、当時の私にはわかりませんでしたから」

 嗚呼、なんてことだ。

「あれから、お母さんは人が変わったように、私に優しく接してくれました。あのままだったら、私がどうなっていたかなんて、考えたくなくなるほどに」

 なんで、こんなに、目頭が熱くなるんだ。

「本当に、あの時は、ありがとうございました! あなたは私の、私にとってのヒーローです!」

 溢れ出る涙で、目の前が見えない。

 しばらく泣き、ようやく落ち着いた俺は、精一杯の笑顔を彼女に向ける。

「……久しぶり。大きくなったね、まいちゃん」

「……はい!」

 彼女の、まいちゃんの笑顔は、あの時のように、輝いていた。

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