第4話 田舎では絶対に存在しない超絶美少女を目の前にして美女耐性のない田舎者はしどろもどろになるしかない

 (一人じゃ持って帰れないし。どうしよう、このウサギの山)


 フーライは返り討ちにあったウサギの山を前にして、途方に暮れていた。

 少ない荷物の入っている荷物袋では、落ちている頭ひとつ入れば限界になるだろう。


(はあー。さっき目覚めた能力に、何かなかったかな?)


 始めて自分を鑑定した時には、憧れの魔法に全部意識を持っていかれ。

 他の能力についてはうろ覚えだった。

 それにまだ鑑定を十分に使いこなせてないので、使うには手を凝視する必要があった。

 フーライが自身に鑑定しようとした、その時。


「もし、そこのか」

「わひゃう!!」

「きゃっ!」


 突然背後から声をかけられ、驚いて奇声を上げてしまったフーライ。

 声の主もフーライの奇声に驚いて、軽い悲鳴を上げていた。


 強張っていた体から力が抜けたので、背後を振り返る。

 そしてフーライは固まった。


 そこに立っていたのは流れる黒髪を風にたなびかせ。

 強い意志を秘めた黒い瞳は、今は驚きで揺れている。

 自分よりやや低い程度の身長に、華奢な肩や腰。

 それに相反するかの様に主張する、上下の豊かな女性の象徴。


 服装こそ一般的なハンターと同じ兜や胸鎧などだが。

 腰に下げた剣は細く、僅かに曲線を描いている気がする。




 フーライは初めて見る異国の美少女……キリカに見惚れ、固まっている。

 キリカは悲鳴を上げてしまったのが恥ずかしく、やや頬を染めながら咳払いして場を仕切り直した。


それがし、名をキリカと申します。ひとつお尋ねしたい。この角刃かくじんウサギの山は貴方が?」

「ああ。それと俺はフーライだ」


 再起動したフーライは少し調子を取り戻し、少年らしいつっけんどんな態度を取ってしまう。

 キリカは気にしていないのか、表に出していないのか。

 変わらぬ態度で話しを続ける。


「能力を聞こうというのではありませんが。これ程の事を一体どうすれば可能なのか。是非お聞きしたく思い、声をかけさせて頂きました」


 キリカじゃなくても木になるのは仕方のない事だろう。

 フーライの周囲1メートルを空白地帯として。

 更にその周囲にウサギの山が出来ている。

 その数は誰の目から見ても、100をも超えるであろう。


 全てのウサギの死体は、首のみが損傷して切り落とされている。

 フーライの防具は革の胸当てとブーツのみ。

 武器は持たずに徒手空拳なので、恐らく魔法で行ったのではないか。

 それか未知の武術系の能力ではないのか。

 キリカはそう予測した。


 能力ならば聞けはしないが、魔法で行ったのなら何か聞けるかもしれない。

 自分の剣が更なる高みへ届くかもしれない。

 僅かだが、そんな期待があった。


 前向きな感情に包まれているキリカとは逆に、フーライは迷っていた。

 今日初めて能力に覚醒したと本人は思っている。

 だから何を話していいのか、判断材料がないからだ。

 そこで彼は当たり障りのないと思った能力を、キリカに伝えてみる。


「俺の能力は収納、武術、魔法だ」

「なっ!?」


 聞いた本人はここまで正直に答えた事よりも、能力の所持数とその内容に驚いていた。

 収納は収納可能量が少なくても、荷物が減るので殆どの職業で重宝される。

 武術は戦士全般で求められる能力だし。

 魔法はもちろん魔法関係者からすれば、垂涎の能力だ。


 それに個人が持つ能力の数は多い者で1。

 大半の人間がゼロの無能力者だ。

 能力の数が2の人間なんて、能力者数万人から数十万人に1人居るかどうか。

 まして3など、100年に1人の逸材だ。

 キリカはフーライが簡単に話した事が気になり、何も知らないのではと心配になった。

 そして今の話しを説明して、どれほど危険な内容の発言だったかを自覚させた。

 彼女の心根では、フーライを利用しようなんて欠片も思いはしなかったからだ。


「すまなかった。田舎から出てきて今日ハンター登録した時には、無能力だったんだ。でもなぜか街を歩いていたら急に力が漲ってきて。確認してみたら6もあったんだ」


 フーライの衝撃の告白に、キリカは表情を引きつらせて何も言えなくなった。実家の道場で、他人の嘘や悪意を見抜く術も身に着けていたから。

 フーライの言葉に嘘はないと信じられたからだ。


(6つとは。どこまで人間離れした数を持つのだ、この御仁は……)

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