第7話:妹・空野 茜
見た目はもうすっかり元気なんだけど、心も完全に元気になるまでは、広志も
「広志君、新しいクラスはどう?」
「んー、まだわかんないな。茜はどう?」
「そうだねぇ。なかなかのイケメン揃いかな」
茜は意地悪くニヤッと笑って広志の表情を伺う。
「そっか、良かったな」
「良かった? ホントにそう思ってる? 実は茜のことが心配なんじゃないの〜?」
「そうだな。心配だよ」
「でしょ〜」
茜が首を横にコテッと傾けると、ポニーテールがゆらっと揺れる。
茜の心が完全に回復して兄離れができるまでは、広志もそのノリに付き合うつもりでいる。だからそれまでは、彼女なんて作れない。
凛もその辺の事情をしっかりと理解してくれて、それまで気長に待つと言ってくれてる。
「ああ。可愛い妹だからな」
「えへへ」
茜は名前の通り顔を真っ赤にしてる。空野茜。茜色の空。その色のように、頰を赤らめている。
「広志君のクラスには、可愛い女の子はいる?」
「そうだな。世界三大美女とか言って、ウチの学年で人気の女子ベスト3がおんなじクラスになった」
「へ〜っ、凄いじゃん。じゃあ広志君は嬉しいんだね?」
「いや別に。全然」
ごまかすとかじゃなくて、ホントにそうだから広志は素直にそう答えた。別に三大美女が同じクラスだからって、嬉しくもなんともない。
「ふーん。じゃぁさ、その中で誰が一番可愛いの?」
──
頭の中に、即座に凛の顔が思い浮かんだ。だけどもそれは、茜には言えない。きっと茜は寂しがるか、嫉妬するだろうと思う。
「ん〜そうだな。やっぱり茜が一番可愛いかな」
「あ〜っ、広志君、ごまかしてる〜」
茜は広志の顔を指差しながら、大きく口を開けて大げさな声を出す。責めるような口調だけども、顔はにやにやして嬉しそうだ。
冗談ぽくは言ったけど、茜が可愛いということは本音だ。妹として可愛いというだけじゃなく、客観的に見ても茜の見た目はかなり可愛い。
(もしも茜が世界高校に進学したなら、世界三大美女を充分狙えるレベルだよなぁ)
「じゃあさ、じゃあさ、広志君は茜のことをどんなふうに思ってるのかな?」
茜はわくわくした顔で広志を見つめる。かかとを上げたり下げたりして、身体を上下に揺らしてるのも、わくわくしてる証拠だろう。
「もしも世界中の人が全員茜の敵になったとしても、僕は絶対に茜の味方だ」
広志のセリフを聞いて、茜はにんまぁと笑った。
「ふーん、そうなんだねぇ。やっぱりねぇ。広志君は、茜のことが大好きなんだねぇ」
「うん、そうだよ」
茜はとても嬉しそうだ。広志も満面の笑みで返す。
(茜は確かにかなり元気になったけど、精神的にはまだ僕に依存してるっていうか、自己重要性の拠り所として僕を必要としている。これは本当の意味で茜が全快するまでは、まだもう少しかかりそうだな)
広志はそう思って、優しい笑顔を浮かべながら茜を見つめた。
「さあ、そろそろ晩御飯の用意をするか」
「はーい」
夕食の準備は広志の役割だ。茜も色々手伝ってくれるけど、メニューを決めたり、休みの日にまとめて買い出しをしたり、調理をするのもメインは広志。
一年前に急に母が亡くなるまでは、料理なんてしたことがなかったけど、ネットを見たり、凜に教えてもらいながら一生懸命学んだおかげで、今ではひと通りの料理をこなせるようになった。
(そういえば最初の頃は、凜が二、三度ウチの家に来て、料理を作りながら教えてくれたこともあったよなあ)
広志は懐かしく思い出しながら、改めて凜への感謝の気持ちを噛み締めた。
◆◇◆
始業式の日、つまり広志のクラスで人気投票が行なわれた日から、一週間が経ったある日。昼休みに健太と一緒に弁当を食べ終わった時に、『そいつ』は突然広志の元にやってきた。
「ねぇ、
弁当箱を鞄にしまってると、広志の頭の上から明るい女子の声が聞こえた。顔を上げると世界三大美女の一人、
赤っぽく染めたショートボブに、こんなに目がぱっちりしてる人がいるんだと思うほど大きな目。しかし鼻筋が通り、引き締まった唇できりっとした顔つきだから、幼い感じはしない。
確かにかなりの美少女だ。
そして陸上部で日々鍛え上げてる引き締まった体つきと、スカートからすらっと伸びた筋肉質の足が美しい。女の子だけども、そして背はそんなに高くないけれど、カッコいいという言葉が浮かんだ。
(こりゃ、人気が高いのもわかるなー)
彼女は去年の人気総選挙2位だし、特徴的な美人だから広志も顔は知ってる。
だけどもまだお互いに顔と名前が一致しないクラスメイトも多い状況で、彼女はなんで平凡な自分を知ってるのかと広志は不思議に思った。
「あの……空野君……だよね? 違う?」
広志が黙ったままだから、間違えたかと不安になったのか、伊田はアセアセした感じで確かめた。向かいに座って一緒に昼食をとってた健太は、
「あ、いや、そう。空野だよ」
「ああ、やっぱり。人気投票2票獲得の空野君だ」
(ああ、そうか。忘れてたけど、あの投票のせいか)
「何か用?」
「うん。私、空野君に興味があるんだ。空野君のことを知りたい!」
(えぇっ? なんで? どうして?)
広志はワケがわからず固まって、嬉しそうに笑う伊田の顔を呆然と眺めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます