第20話 生還☆成功☆ビューティーファイブは健在です!
「小鳥遊、大丈夫か。怪我はないか」
「大丈夫です。艇長、パイロット両名は健在です。しかし、輸送艇のコントロールが効きません。このまま艇を離れますので回収をお願いしたい」
「待て。それでは長時間太陽風に晒されるぞ。危険だ。輸送艇はこちらで何とかする。操縦席で待機しろ」
「何とかするって、どうするの?」
「誰だ?」
「パイロットのコニー・オブライエンです」
「コニー。輸送艇、および積み荷の衛星は投棄する。それで構わないのだろう?」
「はい構いません」
「了解した。ララ。ニンジャの使用を許可する。居住区だけ切り離して来い」
「マカセロ」
親指を立てて立ち上がるララはアースドラゴンの格納庫へと向かう。その格納庫の中に配置されているニンジャ。それは力仕事用のパワードスーツであるが、その名称はララの希望によりニンジャとなっている。身長は約三メートルで、掘削や切断、重量物の除去などができる代物だ。もちろん戦闘用ではなく人命救助用である。ただし、機動力には乏しいため輸送艇小鳥遊までは香織が運ばなくてはいけない。
香織は艇長席を離れ操縦席に座った。そしてアースドラゴンを一気に加速させて小鳥遊の側面へと接近させた。
直線的で強引。航宙学校ではそう評価された香織の操縦だが、それでもニンジャが小鳥遊へと取り付くには十分だった。
漆黒のボディにオレンジのラインが光っているニンジャは大型のレーザーカッターを使用してコクピット部とリアクターを切り離した。そしてスラスターを吹かしてリアクターの向きを変更した。衛星を積載している格納庫を含む輸送艇の大部分は太陽の方向へと向かって離れて行く。
「アースドラゴンが日傘になる。影から出ないようにこちらへと移動せよ。ララも帰還だ」
「了解」
アースドラゴンの影となった小鳥遊の操縦席より、二名が移動を開始した。ララが搭乗したニンジャもアースドラゴンの腹へと収まった。
誰もが救助完了したと認識したその瞬間に、羽里が太陽フレアを観測した。
「隊長。大規模なフレアを観測しました。荷電粒子の到着まで120秒。あーこれ、超デカいわ」
羽里の報告はアースドラゴン内にも届いていた。
「あの規模は不味い」
「水星の影に入らなきゃ機器も全滅しそう」
ノーダン艇長とコニーは動揺を隠せず狼狽していた。しかし、香織は至極冷静だった。
「スーパーコメット。ワープの準備をして待て。30秒でそちらへ戻る」
「了解しました。香織さんお手柔らかに」
返答してきたのは航海士の知子だった。香織の操縦が強引だという事はメンバー全員が承知している。しかし、迷っている時間はない。やはり直線的に、そして強引に、アースドラゴンをスーパーコメットの腹部へと近づける香織。そして、微妙なズレは最終段階でAIが補正し難なく合体に成功した。
「急いでブリッジへ行く。ここでは対Gフィールドの効果範囲外だ。重加速でぺしゃんこになるぞ」
「了解」
「わかりました」
香織の一言に頷くノーダン艇長とコニーだった。そこにいた三人にララも合流してスーパーコメットのブリッジへと向かう。香織とララは即自らの席へと就いた。
「済まないがそこに立っていてくれ。対Gフィールドを展開させるから立っていても安全だ」
香織の一言に顔を見合わせるノーダン艇長とコニーだったが、義一郎が席を立ちその脇へと進んだ。
「大丈夫ですよ。問題ありません」
そう言って二人の手を握る。二人共義一郎の手を握り返して頷いている。
「対Gフィールド展開完了」
香織の宣言に呼応し、周囲がピンク色の力場に覆われる。これでブリッジ内はどんな加速にも影響されない特殊な空間と化す。
「荷電粒子到達迄あと60秒」
「重加速開始。第一ワープ速度まで一気に加速せよ」
「黒子。目いっぱい吹かせ」
「行っきま~す」
「えーい」
黒子の操縦でスーパーコメットは猛烈な加速を開始した。しかし、ブリッジ内で立っている三名は全くGを感じていなかった。
「信じられない。本当に加速しているの?」
「そうだな。しかし、速度計の数値は跳ね上がっているぞ」
メインモニターの右上に映し出されている数字はめまぐるしく上昇していく。その数値を目で読み取ることは不可能だった。
「荷電粒子到達まであと20秒」
「第一ワープ速度まであと10秒」
荷電粒子到達とワープ開始までの時間差は10秒。しかし、それでも余裕は十分だ。
「第一ワープ速度に到達しました」
「電磁波到達まであと10秒」
黒子と羽里が同時に報告する。それに頷き義一郎が指示を出す。
「ワープ開始」
「ワープ開始します」
その瞬間、虹色に輝くスーパーコメットはその宙域から消失した。その直後、大規模な太陽フレアによるすさまじい量の荷電粒子がそこを通過した。
そして月軌道上。虹色の光芒に包まれたスーパーコメットがワープアウトした。
「この度の救助に感謝いたします。あのまま作業を続けていれば、あの予想外の太陽フレアにより私たち二人は相当量の被ばくを受けていたでしょう。ビューティーファイブが駆け付けてくれなければ本当に危険だったと思います」
「偶然が重なったようですが、お二人は救われた。この結果に我々も満足しています」
義一郎とノーダン艇長が手を取り合っている。それにかまわずコニーが義一郎の左手を握る。そしてその手を頬に当てて頬ずりを始めた。
「ビューティーファイブの隊長さんが男性だったなんて知りませんでした。あの重加速開始する時、わざわざ席を立って私たちを安心させてくれた事、いくら感謝しても足りないくらいです。私もビューティーファイブに志願しても良いですか?」
潤んだ瞳で義一郎を見上げるコニー。義一郎は赤面しながら頭を掻いている。
「メンバーの公募はしていなかったと思うんですが、総司令に聞いておきます。現実問題として、複数の交代メンバーが必要だと痛感していますから」
デレデレしている義一郎のつま先を香織が踏みつける。そして香織が義一郎を睨み上げた。義一郎は途端に目線をそらす。
「お二人は船室へとご案内します。諸手続きがありますので十数分お時間を頂きます。よろしいですね」
「了解した」
頷いているノーダン艇長。彼を従えつつ、義一郎から離れそうにないコニーを引っ張りブリッジから出ていく香織だった。
香織も義一郎同様に、交代要員が必要だと痛感していた。コニーの外見はいわゆる金髪ロリ系なので、今までのメンバーにはない個性的な外見を持っている。それも良いと思う。しかし、あの娘が入隊するなら義一郎との仲が怪しくなる事に注意を払わねばならない。
面倒事は増やさないで欲しいと願う香織だった。
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