第17話 セイス

 騎士たる者強くてはならない。

 騎士士官学校でも教養ばかりではなくしっかりとした戦闘訓練も行われている。

 特徴的なのは個人の得意不得意、長所短所、希望などを考慮し、

 その者にあった武器の訓練指導が行われる。

 

 大きく分けて二つ、

 一般部門と特殊部門である。


 一般部門は武器での戦闘が主である。

 さらにその中で、剣、槍、斧、ハンマーなどの接近戦タイプ、

 弓、ボウガン等の遠距離タイプに分けられる。


 特殊部門は主に魔法を使用した全般的な戦闘を学ぶ。


 ユーマは魔力が封印されている状態であるため、

 魔法をまともに使用するのは困難を極めたことと、

 自身が希望したことで剣を使用しての訓練を受けていた。


 そして今

 本来ならば選択した武器別に訓練している者たちが一同に会し、

 サバイバル形式での個人戦が実施されていた。


「うおおおぉぉ」

 ユーマが目の前にいる相手に木剣を数発叩き込むが相手には全くダメージが無い。

 それが本物の剣でも同じ事であろう。


 相手はユーマの同期の中で一番体格が良く、

 さらに全身を分厚い鉄の鎧をまとって大きく見え、歯が立たないといった状況である。

 そんな状況にユーマは不満を漏らす。


「セイス、卑怯だろ。何回切り込んだと思ってんだよ」

「卑怯ではないのだ。動きが鈍いが力があるおいらの特徴を生かした戦闘スタイルなのだ。ユーマこそ、動きが早いから当たる気がしないのだ」


 顔もフルフェイスの兜で覆っているためどんな表情をしているのか読み取れないが、

 低くおっとりとした話し声からは悪気は感じられない。この訓練で鎧の使用は認められている事であり卑怯でも何でもない。


「これじゃ勝負つかないじゃないか……」


 当てても意味がない。

 当たらなくて意味がない。

 一見引き分けにも見えるかもしれないが、

 この二つには大きな差がある。


 ユーマは打ち込んだうえで効かないため、

 木剣が鎧を叩くたびその耐久力は下がり、

 そうこうしない内に折れてしまう可能性かあることと運動量は相手よりはるかに多い。


 一方セイスは、

 当たらないだけで向かってくるユーマの攻撃を鎧でしのげばいいためたいした疲労には繋がらない。


 ユーマに厳しい戦況が与えられる中、

 その局面を変える人物が現れた。


「見つけたぞ、ザコ共」

「ルギナス! こんな時に」

「ザコとは何なのだ! ユーマとの真剣勝負の邪魔をしてもらいたくないのだ。他を当たるのだ」


 二人がルギナスに割り込むなという態度を示していると、予想外の言葉が発せられた。


「だって、もうお前達しかいねーし」


「「!」」


 二人は驚きの表情で顔を見合わせる。

 この訓練は通常五時間ほどかかる。

 まだ始まってから三時間も経っていないのに残りがこの場にいる三人だけということが信じられなかった。


「ユーマ、ルギナスの強さはやっぱり桁違いなのだ」

「ああ、ここでセイスに勝ってもルギナスにやられる」


 二人の考えは一致したようでお互い小さく頷き、

 向かい合っていた方向をルギナスに向け、自分たちの武器を構え直す。


「ん? なんだ?」

「ルギナス、まずお前にリタイアしてもらう」

「卑怯はわかっているのだ。けど、ユーマとの決着のために消えてもらうのだ」

 

 二対一の状況にルギナスはたじろぐかと思われたが、

 予想に反し、顔をニヤつかせながら二人の行動を了承する。


「いいぜ」

「いいのかよ……」


 あっさりと了承するルギナスにユーマは拍子抜けする。


「どうせ、お前ら一人一人かかってきても勝負は見えてるぜ」


 二人は本当のこととはいえ、相手に言われることに不快感を受けた。


「それなら、いっそのこと二人同時に来てくれる方が楽しいしラクだし」


 ルギナスは欠伸をしながら答えたことも二人の怒りを誘った。



「セイス、ルギナスをぶっ倒すぞ」

「今日こそ目にもの見せてやるのだ」

 

 二人はルギナスのなめきった態度に腹を立て一直線に駆け出す。

 スピードの速いユーマが先行する。

 ルギナスは向かってくるユーマに対してまだ戦闘体勢に入っていない。


「ユーマ、お前にセイスの倒し方を教えてやる」

「結構だ。自分で見つける」

 

 ユーマが横切りをくらわせようと木剣を振るとルギナスは木のランスの矛先を下に向け地面に突き刺す形でそれを防ぐ、

 そのランスを軸に大きく飛び上がり、体を捻りながらユーマの背後に着地する。


 後ろをとられ、即座に振り返り切りかかるがルギナスはすでにセイスに突進するように走り出しており空を切る。


「もらったのだ」

 

 セイスは冷静さを欠いており、

 普段よりも木斧を振り上げルギナスに叩きつけようとするが、

 そんな大きなモーションの攻撃が当たるはずもなかった。


「遅いぜ」


 ルギナスは走り込んだ勢いのままセイスにドロップキックをくらわせる。


 大振りで少し体勢がのけ反ったことも災いし、

 セイスは仰向けに倒れ、ルギナスはその胸元に立ったままである。


 さらに、ルギナスはセイスの兜の顎先を蹴り飛ばした。

 

 兜はふっ飛ばされ、青い角刈りの髪型をした精悍でたくましい顔が露出する。


「降参なのだ」

「早いよ!」


 ユーマがあきらめの早いセイスを咎めるが、彼の判断は間違いではない。

 兜を蹴り飛ばされ、露出した顔の前にはルギナスの靴底が覆いかぶさろうとしている。

 実戦であれば頭を踏み潰されるであろう。

 降参するほか選択肢はなかった。


「ユーマ、これで一対一だな。降参するか?」


 セイスの上から降りてユーマに振り返りざま、使い捨てたランスが柄の方を向いてルギナスの方へ飛んでくる。

 それを何食わぬ顔で掴む。


「冗談はよせ。戦わずに降参できるかよ」

「だよなっ」


 ルギナスが眩しい笑顔になる。

 戦闘というルギナスにとって楽しい時間が続くことにイキイキとする。


「この戦闘狂がっ」

 

 ユーマはルギナスに切り込む。

 ルギナスはそれに正面から迎え討つ。

 ユーマの連続した切込みにルギナスは楽しそうにランスを交わせる。


「おおっ、前より強くなったか!」

「当たり前だ」


 ユーマは攻撃の回転を上げて数を増やすが、ルギナスはそれに対応する。


「でも、まだ無理だな」

 

 ユーマが攻めていたのが次第にルギナスに攻防が逆転する。

 ルギナスの一方的な攻撃にユーマが何とか凌いでいるという形、気の抜けない状態で終わり方は一瞬だった。

 ユーマの剣をランスが大きく弾いたのだ。


「くっ!」

「もらったー」


 ランスの柄がユーマの右脇腹に深々と打ち込まれる。

 その衝撃にユーマは苦痛の声を上げるまもなく気を失い地面に倒れ込む。


「よっしゃー、十連勝」


 ルギナスは勝利に酔いしれ、胸を躍らせて一人歓喜する。

 早々に降参し立ち上がったセイスはユーマを肩に担ぎ医務室に連れていこうとする。


「ユーマ、人生諦めも肝心なのだ」

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