第25話

「それで、例の間男の方は何か分かったのか?」

 浦木は研究所の地下、主に作戦室として利用していた部屋で立石の部下に聞く。

「間男? 狭間の男の事ですか? お嬢さんが処理してもう危険は無いと言ってましたが」

「どうだか分からん。あの小娘は、偉そうにしおって」

「助けに来ない所を見ると、大丈夫なんじゃないでしょうか」

「手傷を負わせたらしいからの。療養しているだけかもしれん。のう? 片腕の」

 隅で黙って座っていた『片腕』と呼ばれた男は顔を上げる。


 LEDを敷き詰めたプロテクターを着た男の左腕は奇麗に切り取られていた。

 治療の跡も血が出る様子も無く、CTスキャンで輪切りにしたようにその断面を顕わにしている。

 立石はげっそりした顔のまま虚空を見つめている。


 部屋のドアが開き、女性看護師が浦木に検査結果の書類を渡す。

 退室しようとした看護師は机の上に無造作に置かれた『切断された手』に一瞬目を留めた。

「……なぁ、看護師さん。俺の手、拾って持ってきてくんねぇかな」

 立石が力なく言う。

 女性看護師は「え?」と一瞬戸惑ったが、

「あんた看護師だろう? そんなもん見慣れてるだろ。気味悪がらずに持ってきてくれよう」

 看護師は躊躇したが、恐る恐る『切断された手』を手に取る。

 突然、切断された手は動き、看護師の手を掴んだ。

「きゃあっ!!」

 手を放り出し、悲鳴上げて尻餅を付く看護師に、立石は大笑いする。

 浦木は「ふん」と何度も見せられた悪戯に辟易するように鼻を鳴らす。

「しっかしどうなってんすかね? これ」

 部下がぴくぴく動く手を覗き込むように見る。

「あの小娘が言っていた『フレーム』という力かの? 空間を切り離しているようじゃ。手は体から離れても、血液も神経も通っとる」

「いいじゃないっすか。テレビのリモコンいらないっすよ」

「バカにしてんのかお前」

「しかし一生治んないんすか?」

「それがな、スーツの電源落とすとバリバリと反応があるんだよ。戻りそうになってな」

「戻さないんですか?」

「この方が面白いだろうが」

 見てな、とプロテクターに繋がった変圧器のダイヤルを操作する。

 バチバチとスパークが走ったかと思うと切断された手はビクビクと震え、飛び上がると立石の元に帰った。

 お帰り、と言わんばかりに左腕を撫でると普通に動かして見せる。

「電磁波が関係しておるのかの?」

「完全に電源落とすと繋がっちまうからな。調節が難しい」

「小娘の話じゃと『この世の修復者』がそういう物を治しに来るそうじゃ。電磁波のある所は修復されないのかもしれんな」

「てことはあの小僧にも電磁波攻撃は効くんじゃないすか?」

「可能性はあるの。修復者と間男の力は同じ物だとも言っておった。ふーむ、という事は不可思議な現象も時間と共に消えるが、磁場で囲っておけばその状態を維持できるというわけか……」

 と言うと浦木は目を閉じて、何やら思案を始める。

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