三日間の彼女

石田夏目

三日間の彼女

「田中直也くん私と三日間付き合ってほしいの」

真夏の昼間屋上で俺はいきなり学園一の美女三戸望美にそう告白された


「付き合う!?えっなにかの間違いじゃ…」

自慢じゃないが僕は友達なし。お金なし。彼女なし。の三拍子が揃っていてしかもお世辞にも顔がいいとはいえない

そんな僕が学園一の美少女と称される彼女に告白される意味がわからなかった

「間違ってないわ。とりあえずOKなら明日のお昼もまた屋上にいてね」

そう言うと彼女はその美しい髪をなびかせ颯爽と歩いていった


〈一日目〉

次の日屋上に行くともうすでに彼女がいて日陰に腰を下ろしていた

「あっよかった!はやく座って!」

俺が座ると彼女は後ろからお弁当箱を二つ取り出した

「じゃーん実はお弁当作ってきたの!」

そういうとお弁当箱を開け中身を見せてくれた

そこにはお弁当の定番であるからあげや卵焼きなどがバランスよく敷き詰められていた

「これ全部三戸が…?」

「まぁね。料理は結構自信あるの。食べて食べて」

僕はまず卵焼きに箸をのばし一口食べた

「美味しい。実は甘い卵焼き好きなんだ」

「よかった!お醤油とか塩とか使う人もいるみたいだけど私は砂糖一択で…」

僕たちは卵焼き談義に花を咲かせた

(そういえば高校に入って初めて誰かと昼食食べたな…)

まぁそれがあの三戸になるとは思わなかったけど…

「あっそうだ。明日の放課後時間ある?」

「いや、明日はなにもないけど…」

少し見栄をはって明日はのところを強調した

「よかった。実は買い物に付きあってほしくて」

彼女はお弁当を食べ終わるとにこっと笑って立ち上がった

「じゃあ明日ね?」


〈二日目〉

「どう似合うかな?」

土曜日。彼女と僕は学校の近くにあるショッピングモールに来ていた

三戸は洋服が見たいといいお気に入りだという店に入った

店内は女性ばかりであまり落ち着かなかった

「いいんじゃない…?」

「もーちゃんと言ってよ!さっきのとどっちがいい??」

「んーさっき着てたのかな…」

「田中くんが言うならそうしようかな」

そういうと三戸はさきほど着ていた白の花柄のワンピースに決めたらしく試着室のカーテンを閉じた

(ここで男らしく似合ってるとか言えたらいいんだろうけどな…)

外で待っていると三戸は会計を済ませ店を出てきた

「お待たせ…じゃあ次は…」

三戸は突然立ち止まりじっとポスターを見つめていた

視線の先のポスターをみると隣町にある科学館のものだった。

大きな字で最新型プラネタリウムとかかれている

「プラネタリウム…三戸好きなのか?」

「うっうん。まぁね…それよりあそこのお店みてもいい?」

そういうと急に早歩きになり店へ入っていった

(プラネタリウムか…)

俺は名前を呼ばれ急いで三戸の後を追いかけ店に入っていった

買い物を終え三戸は明日最後だけどどうしようかと尋ねた

僕は少しの間考え三戸をある場所に誘うことにした

「実は明日行きたいところがあるんだ…」


〈三日目〉

土曜日。俺達は駅に集合し

「お待たせ。」

「…あれその服って」

三戸が着ていたのは昨日試着して買っていた

白い花柄のワンピースだった

「せっかくだから来てきたの。やっぱりこっちにして正解だった」

三戸は嬉しそうに笑いながら俺のほうをみた

「ところで行きたいところってどこ?」

「あぁそれはまぁ着いてからのお楽しみということで」

そういう僕たちは駅から少し歩き目的地へとむかった

「えっ…ここって」

「あぁ…昨日ポスターでみてた科学館。プラネタリウム見たいんだろ?」

「…うん。ここ昔よく来てたの。」

「僕もよく来てた。実は星好きなんだ」


プラネタリウムかはじまると満点の星空が僕たちを包んだ

「まず皆様の頭上に見えるのは有名な夏の大三角形である…」

「大三角形ってね夏が有名だけど冬もあるのプロキオン、シリウス、ベテルギウスの三つの一等星を頂点としててね…」

三戸は目を輝かせ色々説明してくれた

僕は三戸の話をうなずきながら聞いていた

(やっぱり誘ってよかったな…)


「ごめんなさい…私星のことになると熱くなっちゃって」

プラネタリウムが終わると三戸はかなり落ち込んだ様子だった

「いや、聞いてて楽しかった。勉強にもなったし」

「…でもうるさかったでしょ…前付き合ってた人がいたんだけど私が星のことで熱くなりすぎちゃって別れたの」

「…好きなことなんだから熱くなるのは当然だよ。むしろもっと聞かせてほしいくらいだ。」

「…ありがとう。やっぱり田中くんは優しいね」

そういうと彼女は優しい笑みを浮かべていた

「覚えてないかもしれないけど私たち前にもここで会ったことあるんだよ」

「えっ…?」

(あっ…もしかしてあの時の)

二年前僕は当時出来たばかりだったプラネタリウムを一人で来ていた

ふと隣をみると俺と同じく一人で座っていた女性がいた

プラネタリウムがはじまりしばらくたった頃彼女をみると頬に一筋の涙をながしていて思わずハンカチを差し出していた

彼女はそれを受けとると僕のほうをゆっくりと見て小声でありがとうございますと言った


二年前顔は暗くてよく見えなかったが確かにあの時の彼女だ

「思い出した?私あの時のハンカチ今でも持ってるんだよ」

彼女はそういうと鞄からハンカチを取り出した

「まだ持っててくれてるんだ…」

「もちろん。宝物だもの。」

彼女はそういうと出口の方へむかって歩きだした

帰り道二人で歩いていると彼女は急に立ち止まり僕の方をじっとみた

「田中くん。三日間ありがとうございました」

「…こちらこそありがとうございました。すごく楽しかった」

「じゃあね」

「じゃあ」

彼女と僕はそう言うと反対の方向へ歩きだした

こうして僕と彼女の三日間は終わった


〈四日目〉

四日目をむかえ僕はいつもの屋上で一人昼食をとっていた

(夢のような三日間だったな…でもまぁもう喋ることも関わることもないだろうが)

そういいながら両手にもったあんパンと牛乳を交互に食べた

「あっやっぱりここにいた」

声のするほうをみるとここにいるはずのない人の姿が見えた

「あんパンと牛乳なんて張り込みみたいだね。でも栄養的には全然ダメ」

そういうと彼女は後ろに隠し持っていた弁当箱を二つ見せた

「食べる?」

「えっ…約束の三日間は終わったはずじゃ…」

「うん。そうなんだけど…一回しか言わないからよく聞いててね…」

彼女は深呼吸をして小声でよしといった

「私とつき…だめだえっと私とつきあって…」

「僕と付き合ってください」

僕は彼女の言葉にすこし笑ってかぶせるようにそういった

「えっ…はっはい。よろしくお願いします」

彼女はそういうとぎゅっと俺の手を握った

顔を見合わすとどちらかともなく笑いあった

「それでずっと気になってたんだがなんで三日間限定だったんだ?」

「あっそれはね…」

彼女は不敵な笑みを浮かべ俺の耳元でささやいた

「三日あれば絶対私のこと好きになるって思ったから」

彼女はそういうとちろっと舌をだして当たったでしょ?と笑った

(きっと彼女には一生かなわないな…)

まぁ振り回されるのも悪くないかと思い僕は彼女の作ったお弁当を一緒に食べるのだった


こうして僕らの三日間は終わりを告げまた新たな一日をむかえた

そして二十年たった今日僕たちは三人であのプラネタリウムに来ている

頭上にはあの時と変わらない星空が僕たちを優しく包み込んでいる

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