第2話


たぶん本当に投げ飛ばす気なんだろうこいつの言った事はよく分かったけど私は今日から友達にならなくてはならないのか。こんな暴力的なヤクザのような女と。しかも信用のなさよ。


「……それは、まぁ、分かったんだけど…。私、今日の事は誰にも言わないから別に…」


「いいから言うこと聞けよ。ガタガタうるせーな」


「……」


私は喋る度に神経を逆撫でするようにこいつに嫌な顔をされてしまう。なぜ会話が通じない?至って普通に言われたけど私の意見はもちろん通らないらしい。もう余計な事は言わない。


「…うん、ごめん分かった」


「…はぁ。じゃ、私が話しかけたらちゃんと応答して仲良さげにしてね。で、琴美のことは一切口に出さないで」


「うん、分かった」


「チッ……はぁーあ」


ちゃんと無駄な事は言わずに答えたのに本当にウザそうな顔をされて舌打ちをされた。私の反応と言うか私が気に入らないのだろうか。前上城まえうえじょうはそのままダルそうに歩いて行ってしまった。


……本当に何なんだ一体。私はこうして初めてこの学校で友達ができたんだけど……これは如何なものか。

友達と呼べる関係ではないが一応友達みたいだけどこんな形で友達ができるって最悪じゃない?て言うかヤクザに絡まれた気分だよ……。

それでも、良かれと思ってやった事は何倍もの怒りを買って返されて散々な目に合ってしまったけど高校二年生になってやっと一人友達ができた。だけど明日からどうしよう。




私は痛む体を擦りながら今日はバイトも特にないのでそのままゆっくり家に帰った。




そして翌日、私はまだ痛む体に湿布を貼って学校に向かった。

私の家から電車に乗って四駅先にある橋ノ宮学院高校は言わずと知れたお嬢様学校だ。偏差値が高く頭が良くないとまず入れないしここは男女共に頭が良くて金持ちしかいない。しかも財閥の名だたるやつらも通っているらしい。

私はそんな学校に将来のために猛勉強して入ったけどここに通っているやつらとは根本的に何もかも合わない。

私の家は普通だし私も普通ではあるんだけどそのせいで友達ができなかった。


友達ができないのは家もあるけど私の外見に難があるのは認めている。でも、肩くらいまである髪は黒いし髪型も普通でスカート丈も特に問題ない。体型も普通だし私は校則違反はしていないが問題は顔と態度にある。

私は目付きが悪くて顔が怖いしキツいと言われる事がある。しかしそれよりも態度が悪いとよく言われてしまう。私的には普通にしているつもりなんだけどよく引かれるし怖がられるし態度がでかくて生意気みたいだ。


これは私が真顔でいるからこうなってしまっているのだと思う。笑ったりするとまだ回りは普通なんだけど普通にしてると何か回りが変だからたぶん合っている。

まぁ、だからと言って面白くないのに笑うのは無理だからもうこれに関してはしょうがないし気にしない。



そんな事よりも、この学校の生徒は私なんか話にならないレベルでヤバイ。

私の学校は駅から歩いて十分程の所にあるのだが皆車で来ていて歩いて来ているやつはほとんどいない。しかも、話している事は家の会社の話しや経済や海外の話しだったり、習い事や授業のよく分からない話し等。私には到底付いていけないような話だ。

そして、極めつけは礼儀作法がとても良くできていると言う事だ。


私もまぁまぁできていると思いたいがここのやつらはお辞儀をしたり礼を言ったり座ったり歩いたりするだけで品が良くて育ちが良いのが分かる。

そんなとこにいる私は当然浮いて浮きまくって友達ができないなんて当たり前だ。



私は学校についてから自分のクラスに向かった。歩いているだけで私は何か目を引いてしまうみたいで煙たがられる。ここにいるやつらに比べたら私はバカだし仕方ないので特に気にしていない。と言うかこれを一年もやられたしもうどうって事もない。私はクラスに着いて自分の席に座ると朝のHRを待った。


クラスを見回すと昨日私を投げた前上城まえうえじょうは城代と高柳とおしとやかに楽しそうに話していて軽く引いた。

昨日私を投げてあんな脅迫みたいな事を言ったくせにあいつは何て涼しい顔をしてるんだ。本当に前上城まえうえじょうに言われたのか疑ってしまう程昨日とは違っていた。


そもそも前上城まえうえじょうはお嬢様の中でも本当に凄いお嬢様らしい。何か私にはよく分からないけど家がバカみたいに有名で金持ちで、おまけにクラス順位も学年順位も常に一位だから合ってはいると思う。あんな暴言吐かれて投げられたけどな。ていうか、暴言も投げられた事もあの身なりからは考えられない。


前上城まえうえじょうは背が低くて小柄だけど地毛の茶色っぽい長い髪はさらさらで綺麗だし顔は小さいのに目が大きくて可愛らしい。要するに、普通に女子がなりたい女子みたいな可愛らしい見かけだ。体型は細いし顔は整っているし所作は完璧。何だか昨日の事は夢か何かだったのか疑いたくなる。

あの女はどうなっているの?


「泉!おはよう」


疑っていたら前上城まえうえじょうは仲良さげに私の元に来た。それと同時にクラスの皆は驚いてどよめいていた。それもそうだ、私には挨拶をしてくれる友達はいなかったし前上城まえうえじょうと友達だなんて有り得ないだろう。


「……おはよう」


「もう、挨拶するだけで何照れてるの?」


とりあえず挨拶をすると前上城まえうえじょうはにこにこ笑いながら私を見た。昨日はあんな舌打ちしてウザそうな顔してたのに、私の頭がイカれそう。しかも私をどうやって見たら照れてるように見えるのか、こいつの思考回路は未知だ。


「……」


何て答えたら良いか分からなかった私は黙っていたら足をにじり潰すように踏まれた。顔は笑っているけど前上城まえうえじょうは怒っているみたいだ。


「まえう……」


思わず前上城まえうえじょうと呼ぼうとしたら一瞬冷ややかな鋭い視線を向けられた。あぁそうだ、名前で呼ぶのを忘れていたけど何この命取りな会話。地味に痛いし。私はとにかく笑うと結は穏やかに可愛らしく話した。


「泉は教室では全然話しかけてくれないから寂しくなっちゃうよ?私」


「え?……あぁ、だって結が友達といて話しかけずらかったから……ごめんね結」


寂しくなっちゃうよって十割嘘じゃん。昨日の豹変したのを見たから分かるけどこれしか見てなかったら完全に騙されるわ。腹黒過ぎるだろ。この恐怖体験を早くやめたいけど私は笑顔を絶やさなかった。仲良さげにしないと身の危険だ。


「そんなの気にしなくても泉は友達なんだから良いのに。泉は勉強できないくせに真面目なんだから」


「じゃ、じゃあ、今度からは……話しかけるよ」


「うん。クラスでもいつもみたいに仲良くしようね?」


「…うん、もちろん」


結は私の返答に満足したのか足を踏むのを止めてくれた。何か軽くディスられて嘘言われてんのにちゃんと答えた私は偉い。てか、こいつ笑ってて可愛い癖にこちらとしては恐怖だよ。私が内心怖がっていたら結は嬉しそうに言った。


「うん。嬉しい。じゃあまた後でね泉」


「あ、……うん。また…」


本当に思ってねーだろと思うけど昨日言われた通り仲良い振りしないと投げ飛ばされてしまう。また投げられるのは痛いから御免だ。結が自分の席に戻って行ったのに心底私は安心したけどこれから身の危険があるのかと思うと気が重かった。



それからすぐにチャイムが鳴ってHRが始まって午前の授業が始まった。私はこの高校には受かったけどハイレベルな授業に付いていくのがやっとで授業中はしっかり起きていたけど分からない問題はすぐに現れる。

それは四時間目の数学だった。

私は特に得意な授業はないし何なら全部嫌いだけど将来のために勉強は頑張っていたが今日の数学は訳が分からなかった。


「この三角形の底辺の面積はYなので13になるがこの三角形の角度は……柳瀬さん答えてください」


三角形の面積や角度を求める問題は定番の定番だけど私は今日全く分からなかった。前のページを読み返しても分からないしそもそも式に対しての数字の当て方も分からない。でも当てられてしまったし私は仕方なく立ち上がった。


「分かりません」


私の回答は恥ずかしい事ではないのに周りに何人か笑ってるやつがいるけど気にしていない。分からないんだから答えないよりは良いだろうに。


「分からないって、少しは考えたんですか?」


数学の先生は呆れ気味に言うけど私は真面目に答えた。


「はい。考えたけど分かりません」


「そ、そうですか……じゃあ他に…」


先生はなぜか怯えたように驚いてから他のやつを当てていたけど分からないって言ってんだからさっさとそうしたら良いのによく分からない人だ。

それから私は当てられる事はなかったけどやっぱり分からずに数学の授業が終了してしまった。


あぁ、まずい。分からないのはまずい。先生に聞きに行きたいけどまずは自分でよく考えてからの方が良い。

私はお昼休みになってすぐ数学の教科書一式と鞄を持って校舎横のベンチに行こうとした。あそこはこの学校で私の唯一の憩いの場だ。


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