優美なるプリンセスは

风-フェン-

第1話




「おまえ!まじでふざけんな!」


「はぁ?私は何もしてないっつーの!」


「あんたが大悟君をたぶらかしたんだろ!琴美の大悟君なのに!!!」


私は今日、校舎横のベンチにマーカーを落としたから拾いに来たのに激しい喧嘩を目の当たりにしてしまった。

何か可愛らしい顔した女二人がどっちも怒りながら制服を掴んだり髪を引っ張ったりして怒鳴っている。女同士の喧嘩だけど見ていて怖かった。


「だから!大悟なんか好きじゃねーよ!あんな男こっちから願い下げだよ!!」


琴美ちゃんじゃない方の女子は琴美ちゃんの黒い綺麗な長い髪を引っ張りながら可愛い顔して嫌そうに怒りながら言い放った。

ん?この琴美ちゃんじゃない方はよく見ると私のクラスメートの前上城まえうえじょうだ。普段は虫も殺さなさそうなお嬢様なのに豹変している。

それよりも何か三角関係?なのかよく分かんないけど大悟君について揉めているみたいだった。


ていうかこれ止めた方が良いの?昼に勉強した時に落としたマーカーを放課後に拾って帰ろうとしたらこの二人が喧嘩しながらここにやって来て今に至るけど私は完全に場違いだし割り込んでもこの二人と友達でも何でもない。


「そうやって琴美に嫌がらせしてくるんじゃねーよ!いつもそうだよね!?パパの力でも借りてる訳?この性悪女!!」


私が考えていたら琴美ちゃんは平手で前上城まえうえじょうの頬を叩いた。それに幾らか琴美ちゃんより冷静そうだった前上城まえうえじょうはキレたみたいで琴美ちゃんに平手をお見舞いした。

私は驚愕した。平手をしている人を初めて見た。音がヤバイし一体何があったのこの二人。


「琴美!いい加減にしろ!!あんた本当にバカにも程があんだろ!あたしは前から大悟何か好きじゃないっつってんだろ!あたしにぶっ殺されたいの?!」


琴美ちゃんに掴みかかったキレた前上城まえうえじょうは制服を物凄い勢いで琴美ちゃんを揺すって怒鳴ると琴美ちゃんも負けじと掴みかかっていた。


「琴美はバカじゃない!!あんたと一緒にしないでよ!!!」


「はぁ?!だから話を聞け!!」


「あんたの話なんか聞きたくもない!!」


何かもみくちゃになってかなりまずい状態になってきた。服とか髪とか乱れてるし端から傍観してたけど、ここは人がほとんど来ない場所だしこれ以上は本当に乱闘になりかねないので私はとりあえず二人を離すように間に入った。


「ねぇねぇ!もうやめなよ!落ち着いてよ!!」


二人の肩を掴んで大きな声をあげながら二人を離そうとしたけど二人共背が低い割に力が強くて驚く。やっとの思いで間に入った私を睨み付けてきた二人に止めたは良いけど気まずくなった。




「……チッ…おまえ誰だよ!!」



何言おうか悩んでいたら前上城まえうえじょうに可愛い顔して凄い剣幕で怒鳴られた。まぁ当たり前の反応ですよね。

怖くて少したじろいでしまったけど私は落ち着きながら言った。


「…私は二年B組の柳瀬泉です。二人とは何も関係ないけど喧嘩してるみたいだったから止めに入りました。……あの、もうやめなよ?何か事情があるのは分かるけど殴ったりとかは良くないと言うか…」


とにかく身分を証明して止めようとしたのに私は前上城まえうえじょうにまた怒鳴られた。


「黙れバカ!!関係ないのに入ってくんな!!」


「え?ちょっ……いっ!!!!!」


私は前上城まえうえじょうに掴まれたと思ったら次の瞬間には体が浮いて強烈な痛みが背中に走って視界が反転した。

え?何が起きた?全く理解できない。とにかく驚きと痛みがあるけど何で床に一瞬にして寝ているの私。背中が痛んで女としては太い声出しちゃったけど何が起きたのか訳が分からなかった。


「おまえには関係ねーんだよ!!」


「……」


私が理解できないで唖然としていたら前上城まえうえじょうに信じられないくらい怒鳴られた。

何か色々起こり過ぎて反応できない私はとにかく床に寝転びながらよく考えた。

今の状況としては一瞬にして仰向けに地面に叩きつけられた、で合っていると思う。痛みと驚きと一瞬の事で理解できなかったけど私は推測すると投げられた?みたいだ。


「こいつもあんたが仕組んだの?」


やっと事態を把握していたら琴美ちゃんは私を怒りながら睨んできた。


「は?知る訳ないだろこんなやつ!!」


「……」


え?何この肩身の狭さ。前上城まえうえじょうにも睨まれたし私の言われように合ってはいるので発言できない。

と言うか、私よりも小柄で小さい前上城まえうえじょうに投げられる何て思いもしなかったしこんな暴言まで吐かれて私はそんなにやらかしたの?私がやった事はありがた迷惑だったんだろうけど投げるなんて初体験だよ。

すると琴美ちゃんの携帯のバイブレーターが鳴ったみたいで琴美ちゃんは携帯を確認すると前上城まえうえじょうを睨み付けて足早に去って行こうとした。


「おい!琴美!!」


「あんた何かと話してる暇なんかない!消えろバカ!!」


前上城まえうえじょうに負けず劣らず暴言を吐いて行ってしまった琴美ちゃん。とにかく一応喧嘩は終わったみたいだけどなぜか私はまた前上城まえうえじょうに睨まれていた。


「チッ…おまえ余計な事すんなよ」


可愛い顔してウザそうに舌打ちをした前上城まえうえじょうは乱れた制服や髪を整えている。こいつクラスでは高嶺の花みたいなおしとやかで可愛らしい女子だった気がするんだけど私は何でこんなにキレられているんだ。


「……すいません」


「すいませんで許せるかっつーの」


仕方なく謝ったのにまたキレられた。てか、怖い。言葉遣いは雑だし何かハエでも見るようにウザそうな顔して見てくるし可愛いから尚更怖く感じる。私はとても悪い事をしてしまったのか自分を疑ってしまう。


「…おまえ早く立てよ」


「あ、はい。……いっ!たたた…」


急かしてくるから立ち上がろうと上半身を起こしたけど打った背中全体が痛い。それに腰が一番痛くて動くと痛みが走る。思わず腰を擦ると前上城まえうえじょうは舌打ちしながらしゃがんだ。また暴言吐かれると思いながら冷や冷やしていたらウザそうな顔をしながら優しく背中の汚れを払ってくれた。


「……あんた、受け身とらなかったの?」


そんなとるのが当たり前みたいに言われても私は運動も習い事もしていないからできないに決まっている。


「……すいません。そんなのできません」


「チッ…なのによく止めようとしたな?頭悪っ」


「うん……ごめん」


何かいたたまれなくて謝るけど何で私こんなに惨めになっているのだろうか。間に入らなければ良かったなと思っていたら今度は二人の女の子がこちらにやって来た。


「結ちゃん!」


次は何だ?勘弁してくれと思っていたら近づいてきたのはこれまたクラスメートの前上城まえうえじょうの友達だ。この二人は前上城まえうえじょうの回りにいつもいる城代と高柳だ。二人はなぜか心配している様子だった。


「ああ、二人共どうしたの?」


「……?!」


え、何この女。私は驚いて思わず前上城まえうえじょうに顔を向けた。前上城まえうえじょうはさっき私に悪態をついていた癖にがらりと人が変わったように二人ににこやかに穏やかに話しかけたのだ。私はそれにまた反応できなかった。


「結ちゃんが琴美ちゃんと言い合ってたって聞いて喧嘩でもしたのかと思って探してたの。……でも、柳瀬さんと一緒だったんだね?」


城代は私と前上城まえうえじょうが一緒にいるのを不審そうに見ながら言った。確かに私達は今日話すのが初めてだしまず友達でも何でもない。しかもこの状況を話すと長くなるし私も投げられた、何て言いたくない。私が考えていたら前上城まえうえじょうは穏やかに笑いながら言った。


「喧嘩なんかしないよ?少し話しただけ。そのあとに泉に勉強教えてあげただけだよ。二人には言ってなかったけど泉とは仲良しで少し勉強を教えてから帰ろうとしたらいきなり転んだからびっくりしちゃって」


「……え?」


何嘘ついてんの?しかも仲良さげにいきなり名前呼びされて私は頭がパニックになっていた。しかし、可愛らしい顔をして笑いながら動揺している私を見た前上城まえうえじょうは一瞬私を鋭い眼差しで睨んでからまた笑った。

これは、とにかく話を合わせないとまた何かされてキレられるのは間違いない。私は取り繕うように笑った。


「…そ、そうなんだよ。さっきまで勉強を教えてもらってたら躓いちゃって」


「ふふふ、泉ってこう見えてドジなの。可愛いでしょ?」


前上城まえうえじょうは笑いながら私の肩を優しく撫でてきた。何この恐怖感。さっきと違い過ぎる言動に私は内心冷や汗が出そうだった。何考えてんのかさっぱり分からないし何かもうとにかく怖い。震える。私は怖がりながらとりあえず笑っていたら城代と高柳は安心したように笑った。


「そうだったんだ。良かった、安心したよ。琴美ちゃんと何かあったんじゃないかって心配してたから」


「そんな心配しなくて大丈夫だよ。ほら、もう二人は帰らないと今日は習い事じゃなかった?」


城代と高柳に前上城まえうえじょうは手首に付けていた高そうな時計を見ながら言った。そうだ、忘れていたけどこいつらは生粋のお嬢様なんだった。高柳は思い出したように口を開いた。


「そうだ、忘れてた。じゃあ、また明日ね結。千秋行こう?」


「う、うん。じゃあね結ちゃん」


高柳は城代の手を引っ張ると城代は引かれながら言った。


「うん。また明日ね?気を付けてね」


そして、前上城まえうえじょうは二人を笑って見送った。

二人が見えなくなると前上城まえうえじょうは大きなため息をついた。


「はぁー、あんたのせいで面倒臭い事になったじゃん。元はと言えば琴美のせいだけどさ」


前上城まえうえじょうはダルそうに立ち上がると私に手を差し出した。私のせいなのは分かったけどこれ掴めって事?また投げられそうで怖い。私が戸惑っていたら前上城まえうえじょうにまた舌打ちをされた。


「チッ、早くしろよ」


「あ、はい。…すいません」


掴めって事で合ってるみたいだから私は慌てて手を掴んで痛みに耐えながら立ち上がる。背中やお尻を少し払うと私の鞄をベンチの方から持ってきてくれた前上城まえうえじょうは鞄を私に投げるとウザそうな顔をして言った。




「私とあんた、今日から友達ね。私の事は仕方なく結って呼んで良いけど、琴美との事は誰にも言わないで。言ったら投げ飛ばすから」


「…………」


それは脅迫のような言葉で私はまた黙ってしまった。

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