第33話 エピローグ

 翌日、ポースターへと戻るために竜車へと乗り込んだ。

 レイラとエルザはユニコーン車で帰るようだ。


 レイラは余程お母さんのお花が好きなのか、花瓶に挿したカンパニュラを大切そうに抱き抱えている。


 一瞬、ユニコーン車に乗り込む彼女がこちらへ振り向き力強く頷いていたので、よくわからなかったけど親指をグッと突き立てて微笑んだ。

 するとなぜか赤面して、慌てた様子で乗り込んでいく。


 まっ、何はともあれ、レイラとの距離もかなり縮まったと思う。

 これでバッドエンドは無事回避できたのではないだろうか。



 あれから数日――まぁそれなりに大変だった。


 しばらく学校を無断欠席していた俺達は、ゴーゲン・マクガイン理事長にこっぴどくお説教された。

 帝国の第三王子だからと言って、一度御入学された以上は好き勝手は許されないのだとか。


 そのせいで、俺とレイラにマイスター兄妹は一週間の補習を余儀なくされた。

 あっ、そうそう。

 ずっと気になっていた学園派閥の一つ、アヴァンにも無事入ることができた。


 レイラがアヴァンに所属していたお陰で入れたのだが……やはり帝国の王子ということで肩身は狭い。

 だけどジェネルとシェルバも居るし、何より近頃レイラが優しい。


 きっと、アメストリアの一件で少しは誤解が晴れたのではないだろうか。

 このまま彼女と友好関係を保っていれば、俺の人生が悲惨なものに変わることはない。

 と、願いたい。


 ただ一つ気がかりなのは、リズベット先輩だ。

 あれ以来一度も姿を見かけていないが、革命軍が慈善団体に変わった今、彼女にはもう何の害もないだろう。

 飽くまで俺の希望的観測なのだけど。


 それと、帝国から喰魔植物の種を盗み出し、アメストリアのフレマセル村に種を植えた犯人も、無事捕まえたとグゼン・マルスロッド大臣から報告を受けていた。

 これはセルバンティーヌのお陰だな。


 しかし、当の本人はというと……革命軍本部に経理部の部屋をクレバから与えられているというのに、何故か俺の屋敷に住み着いている。

 まぁ、根からの悪い奴ではなさそうなので別に構わないのだが、与えた部屋に俺の神棚を作って毎朝祈るのだけはやめて欲しい。


 クレバからは革命軍内部に俺を信仰する宗教団体みたいなのができていると報告もある。

 まず間違いなくセルバンティーヌのおっさんの仕業だろう。


 変なことをしないでもらいたい。

 ハッキリ言って迷惑以外の何物でもない。


 革命軍はレイラの父、ライン陛下の許可を得てアメストリアにも支部を作ったらしい。

 今では魚の輸入業だけではなく、ドラゴンタクシーなる仕事も始めているとかなんとか……。

 まぁ、好きにやってくれ。


 人手が増えたことに加え、アメストリアというお得意先ができたことで、オルパナール及び海住連合はこれまで以上に潤っているらしい。

 シェルバちゃんの話しでは、近い将来海住連合の長にジェネルが抜擢されるかもと、噂が立っているのだと。大出世じゃないか。


 そのジェネルは近頃、マハラジャのように黄金のアクセサリーを身にまとっており、成金王子と化しつつある。

 いつかサイババのように手から金でも出すのでは? と、俺は生暖かく見守ることにした。


 ステラは………相変わらず過ぎて何も言うことがない。



「ジュノス殿下、アールグレイです」


「ああ、いつも悪いな」


「いえ、ジュノス殿下に飲んで頂けて光栄です!」


「そういえば随分静かだな。アゼルは?」


「クレバさんのところに遊びに出掛けちゃいました」


「ハァー……」


 あのバカ! 執事の仕事をほったらかして遊びに行くって何を考えてんだよ。

 つっても……まだ6歳だもんな。

 仕方ないと言えば仕方ないな。


「それにしても、庭で頂くレベッカのアールグレイは格別だな!」


「うふふ、お褒め頂き光栄です! ジュノス殿下」



 本当にこれでバッドエンドを回避できたのか……それは俺にもわからない。

 だって人生は長い!

 前世ではあまり長生きしたとは言えないが、今世の俺の寿命ってのが80年だとすれば、現在15歳の俺にはあと65年も残されているのだ。


 そんな未来のことまではわからない。



 わからないからこそ全力で、破滅を回避するため誠実に生きようと思います。

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悪役王子~破滅を回避するため誠実に生きようと思います。 🎈パンサー葉月🎈 @hazukihazuki

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