第26話 イベント発生?

 昨日の茶会はそれなりに有意義だったな。

 マーカスと共にヘレナちゃんがくっついて来た時はどうしようかと思ったが、アゼルを雇っておいて正解だった。


「くそぉぉおおおおお! あのヘンテコ巻き貝女……今度来たらオイラのお茶でギャフンと言わせてやるぞ!」


 うんうん。理由はどうあれ、アゼルに執事としての誇りのようなものが芽生えたのはとても素晴らしいことだろう。

 結果的にお茶を淹れるテクニックが上昇すれば結果オーライだな。


 しかし、マーカスの言っていたアメストリア国の問題が少々気になる。

 この事件が【悪役王子のエロエロ三昧】内で起きていたものなのか、はたまた俺が動きまくったせいで発生した事柄なのか……まったく判断できない。


 せめて事件の詳細何かがわかれば判断できるのかも知れないが、アメストリアに知り合いなんて居ないしな。

 かと言って、アメストリアに様子を見に行く訳にもいかんだろう。


 マーカスの話しだと国境沿いは完全に封鎖されているようだし、第一敵視されている帝国の王子が赴けば……何をされるかわかったものじゃない。

 ここは様子を見るしかないかな?


 そういえば……ステラから手紙が届いていたな。

 相変わらずの勘違い振りが目に余る彼女だが、あれでも聖女の器なんだよな。


 でも、今はまだ力に目覚めていない。

 目覚めていれば帝国から手厚い持てなしを受けているはずだ。

 まぁ聖女誕生イベントなんて死んでもしてやるものか!


 あれは直接俺のバッドエンドに関わる訳じゃないしね。

 ステラが図に乗るだけのクソイベントだ。


 居ても居なくてもどっちでもいいヒロインなんだし、聖女にしてやる義理はない。


「あの~、ジュノス殿下」


「どうかしたかい? レベッカ」


「その……お客人がお見えになられております」


「客人?」


 誰だろう? てか、なんでレベッカはそんなに気まずそうにしているんだ?

 嫌な客でも来たのかな?

 この屋敷に遊びに来る奴なんてジェネルかシェルバちゃんのどちらかだろう。


 と、鼻唄を口ずさみながら客間へとやって来た俺は、呆然と立ち尽くしてしまう。

 だって……目の前にはソファに腰かける見覚えのある女性、レイラの従者であるはずのエルザが居たんだ。


 これは何かのドッキリかと目を擦ってみるが、目前の彼女が消えることはない。

 もちろん、ドッキリプレートを掲げた誰かが登場することもない。


 こちらを射るように見据えるのは紛うことなきエルザ本人だ。


 しかし、おかしいな。

 何故彼女一人なんだ?

 主君のレイラがいないじゃないか。


 というか、どうして彼女が俺の屋敷に居るんだよ。

 何しに来たんだろ?

 あっ、ひょっとして……レイラに渡した茶会の招待状、日付を書き間違えちゃったかな。


 そのことで文句言いに来たとか?

 だけど、それならレイラ本人がホラ貝のような髪を鳴らしながら、戦国武将ばりに乗り込んで来そうなものだが……。


 でも、これは考え方によってはチャンスじゃないか!

 この機会にレイラの従者である彼女と仲良くなれれば、一気にレイラと距離が近づけるかも知れない。

 本人から攻略するよりも、その身内から落とした方が優位にことが運ぶと聞いたことがある。


 よし、ここはチン長に……じゃなくて慎重に行くぞ。


「よ、ようこそお越し下さいました。どうやらこちらのミスで茶会の日取りが誤っていたようですね。ああ、でもお気になさらず、こちらの間違いですので……」


「何を訳のわからないことを言っているんですか。それより……今日は折り入ってお願いがあって参りました」


「は?」


 お願いってなんだ? 何のことだ? 何でレイラの従者が俺にお願いしに来るんだよ。

 あかん……さっぱりわからん。


 てか、エルザってこんなにしおらしいキャラだったかな?

 いや、そもそも彼女と言葉を交わしたのはこの街にやって来た初日。

 それも一、二度程度だ。


 それにしても……見た目の凛々しさからは想像がつかないほどもじもじしているな。

 こう言うのをギャップ萌えと言うのだろうか?


 しかも、よくよく見るとめちゃくちゃ美人な人だな。

 ただでさえ女性慣れしていないから妙に緊張する。

 だけど油断は禁物だ。


 彼女も凄まじい殺気を俺に放っていたことがある。

 気を抜いたら腰に提げた得物でバッサリ……なんてこともあるかも知れないぞ。


「そんなところに突っ立っていないで、あなたも座られたらどうですか?」


「ああ、これはこれは御丁寧に……」


 って、ここは俺の家なんだけどな。

 いかんっ! 美人が作り出す独特の雰囲気と間に、完全に飲み込まれてしまっている。

 気をしっかり持たねば。


「それで……その、お願いと言うのは何のことですか?」


 まさか……死んでくれとか言いながら剣を抜いたりしないよな。


「お願いと言うか……せ、責任を取って頂きたいっ!」


「はぃぃいいいいいいいいいいいいっ!?」


 責任って……なんだよ。さっぱりわからん。

 まるで前世で見たトレンディドラマのワンシーンだ。

 まさか俺の子を身籠ったとか言い出したりしないよな。

 あはは……まさかな。あり得ん。


 そんな覚えはミジンコ程もない。

 実は第二のステラで、ヤンデレでしたとか言うオチはないよな。

 そんなのは死んでも勘弁だぞ。


「その、責任と言うのは……なんのことでしょう?」


「あなたのせいでレイラ様がどこの馬の骨ともわからぬ者と婚約させられる上、即日結婚させられかけています。その責任を取って頂きたい!」


 あかん……意味がわからない。

 俺の子を身籠ったと言われるくらい意味不明だ。

 まっ、実際そんなことを言われたら口から泡吹いて卒倒する自信がある。


「あ、あの……まったく意味がわからないんですけど……」


「すべては帝国が原因だと言っている! あなた方帝国が無茶な税を要求しなければ、このような事態は避けられた!」


 は? いきなり何言ってんだよこの人。

 確かに帝国のやり方は間違っていると俺も思うが、今すぐにどうこうできる問題ではないことくらいわかるだろ。

 改善するためにはそれなりの準備と言うものが必要だ。


「帝国がアメストリア及び他国に要求している税については、俺も如何なものかと思っており、改善すべき課題の一つとして今後取り組んでいくつもりなので……もうしばらく待ってはもらえないだろうか」


「……時間がありません! 詳しいことを説明します」


 何だよその目はっ! 人をおバカさんを見るように呆れた目で見るんじゃないよ。

 美人なら何をしても許されるのか……まぁ、多少は許すけどね。



 と、アホなことを考えながらエルザの話しに耳を傾けていたのだが、なんと無茶苦茶な言いがかりだ。


 自国のミスをあたかも俺のせいにするなんて、それでは肩がぶつかっただけで慰謝料を寄越せと因縁つけてくるタチの悪いチンピラじゃないか。


 いくらなんでも無茶があるだろ。


「それ……俺の、帝国のせいなんですか?」


「あなた私の話しを聞いていましたか?」


「ええ、しっかり全部聞いていましたよ。奇妙な種を植えたら村や街を覆うほどの植物が育ち、人々が体力を奪われて困っていると……」


「誰のせいで種を植えることになったとお思いですか! あなた方帝国のせいではないですかっ!」


「いや、雨が降らなかったからで……」


 まずい。

 いらんことを言ってしまったのか、体に穴が空くほどこちらを見てらっしゃる。


「ゴホンッ。そもそも、あなた方帝国が法外な税を要求しなければアメストリアの民が飢えに苦しむことなどなかったのです!」


「それは……確かにその通りですね」


「ええ、随分物分かりがいいですね」


「まぁ、事実なんで」


 だけど、それとこれとは話しが違わないか?


「では、レイラ様をお救いなさい!」


「んっな無茶なっ!」


 しかし待てよ。

 もしも、レイラが他国の王子と結婚したらどうなるんだ?

 その場合は俺の、帝国のバッドエンドは避けられるのか?


 そもそも【悪役王子のエロエロ三昧】では、レイラは結婚していたのか?

 そんな設定あったかな?

 俺の記憶が正しければ……独身でしたよね?


 なんたってレイラ・ランフェストと名乗っていたくらいだ。

 仮に結婚していたらランフェストじゃないだろ?

 それとも……婿養子か?

 相手方はレイラを嫁に貰うと言っているのに?


 それは幾らなんでもないだろう。

 と、なると……物語収束説か?


 レイラの結婚と物語の収束に何の関係があるんだよ?

 考えられる可能性としては……革命軍の代わりか?

 だとすればかなりまずい。


 そうと決まった訳ではないが、1%でも可能性があるなら阻止しなくては。

 絶対にレイラを結婚させる訳にはいかないな。


 だけど……どうやって解決する。

 アメストリア国がお手上げだと言っている植物を、俺が一人でどうにかできるものなのか。

 スラムを掃除するのとは訳が違うぞ。


 って……待てよ。


「そのアメストリアに根を生やしたという植物なんですが……ひょっとして人の多い場所だとさらに成長スピード早くなったりしませんか?」


「何故知っているのだ!」


 あっ、やっぱり……。

 これって喰魔植物イベントだよね?


 確か……【悪役王子のエロエロ三昧】で同じイベントがあったな。

 ゲーム内ではバカな貴族が種を植えてしまい、王都セルダンを植物が覆ってしまうんだ。


 そう、これはステラの聖女覚醒イベントじゃないか!

 でも……何でアメストリアで起こるんだよ。


 考えられる要因は……。

 俺が大臣に門閥貴族達の不正を暴くように指示した結果、恨みを買ってしまい、帝国で封印していた種を誰かが持ち出したのか? それをアメストリアに売ったバカがいるとすれば……一応辻褄は合う。


 そして、レイラが婚約することで得をする人物がいるはずだ。

 それは……リズベット先輩!


 つまり、リズベット先輩の支援者が種を盗み出して、アメストリアに売りつけた。

 それを駆除する代わりにレイラと結婚する。

 何のために? 答えは簡単。


 歴史から消えてしまった革命軍の代わりになる軍を手に入れるためだ。

 アメストリアが協力な同盟国を手に入れてしまえばかなり不味い展開になる。


 その同盟国が別の国と同盟を組んでいない保証もない。

 最悪、星座のように繋がっていたらチェックメイト……王手じゃないかよ!


「わかりました。その植物はこのジュノス・ハードナーが駆除致しましょう」


「ほほ、本当か!? 本当にそんなことが出来るのか!」


 みるみる顔を真っ赤にして身を乗り出し、凄い慌てようだな。

 まっ、それだけレイラを助けたいということなんだろう。


 それに、なんかちょっと可愛いな。


「とりあえず、レイラにはまだ祖国に帰らないように言って下さいね。俺も一緒に行きますんで」


「わわ、わかった! レイラ様には私の方から言っておく……が、私があなたに懇願したと言うことはくれぐれも御内密に」


「え……なんで?」


「あなたバカなんですか? 敵に助けを求めたとレイラ様に知られれば、私の立場ありません!」


 うわぁ、出たよ。

 貴族の立場を優先する思想。

 まぁ、別にいいけどね。


 しかし、人に頼み事をしておきながら何て態度のでかいお姉さんだ。

 ある意味見習いたいものだな。



 かくして、俺はレイラの婚約を阻止するために、やりたくもない聖女覚醒イベントをこなすハメになってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る