駒の音

白鷺人和

第1話

何をしても退屈だった。

昔から、心が揺れ動かされた事など無く、昔から運動会や卒業式などで熱くなったり、泣いたりする奴の気持ちが理解できなかった。

そんな俺が唯一が没入した物がある。それが、祖父との将棋だ。

といっても、将棋自体が楽しかった訳でわない、俺が好きだったのは祖父の方だ。

いつも何を考えているか分からない、表情が全く動かない祖父が、将棋を指しているときだけはいつも笑っていたから。

俺はそれが嬉しくて、中学生になっても祖父の家に行って将棋を指し続けた。

周りに将棋をしている同級生など居なかったため、変人扱いをされたりもしたが、俺にとってはそんなことどうでも良かった。

祖父は勝つと年甲斐にもなくはしゃぎ、負けるとふてくされる、子供みたいな人だった。

だけど、俺が強くなると頭をポンポン叩いて褒めてくれた。それが嬉しくて、僕は必死に将棋の勉強をした。

将棋を指している祖父はいつも元気で、力強くて、俺は何の疑いもなく、この日々がずっとこのまま続いていくと思っていた。

そんな祖父が俺が中学3年の時、亡くなった。肺炎だった。

家でいきなり倒れて、そのまま病院へと搬送、そこから治療を受けたが、死んでしまった。

そして葬儀が盛大に執り行われた。

俺は親と一緒に、慣れない喪服を来て3列した。

祖父の葬儀にはあったことも無いような親戚などが集まり、皆泣きながら喪に服した。

俺は皆が泣いている中、泣いていると祖父から「男なら泣くな!」と言われそうだなと思ったから、一人足をつねり泣くのを我慢した。

そんな俺を他所に、遺影の中の祖父は子供みたいに笑っている。

そこから祖父は火葬され、骨だけになった。

葬儀が終わり、俺は祖父の形見である将棋盤の前に座った。

駒を二人分並べて、俺は一手目を指した。生まれて初めて哀しみの涙を流していた俺の駒からは、弱々しい音が鳴った。

だがいくら泣いても、いくら待っても、いつもの力強いあの音は鳴らなかった。

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駒の音 白鷺人和 @taketowa

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