第8話 たましい

「お前には魂があるか?」

「魂・・・。生きているからあると思う。」

「じゃあ、犬にはあると思うか?」

「犬・・・わからない。」

「じゃあ、アリンコには?」

「わかるわけない。」

「お前にあるならば、ミミズやオケラやアメンボーにもあるはずだろ?」

「・・・・・」


「じゃあよ、お前の魂は生まれてくる前どこにあった?

 そして、死んだらどこに行く?」

「・・・わからない。」

「死後の世界は未経験だからわからんかもしれんけど、

生まれてくる経験はあるだろ?さあ、どこにあった?」

「・・・・わかるわけないだろ!」

「お前のオリジナルの魂なんていうものをあるとしてしまうと、

問題が発生する。それが今の話。生まれてくる前はどこにあった?

そして死んだらどこに行く?という問題が。」

「・・・・」


「それに犬だって感情があるぞ。普通に考えればあいつらにも魂はあるはず。」

「・・・・なにが言いたいんだ?」

「簡単な話。お前今まで疑問に思ったことないか?なぜ自分は金持ちの家に

生まれず、カッコよく生まれず、幸せな環境に生まれなかったのか。

なんであいつは良い環境に生まれ、俺ではなかったのか。」

「・・・・ある。というか、普通の人は皆そう思うだろ。」

「でな、ちょっと脳みそを使え。もしな、お前の記憶はそのままで、

お前の魂をあのウエイトレスにいれ、あのウエイトレスの魂をお前に

入れたらどうなると思う?記憶は脳みそに残るはずだから、

入れ替えるのは魂だけ。」

「・・・・気づけない?」

「そう、その通り。記憶がそのままならば気づかないはず。だって、

自分を形成しているのは過去の記憶だろ?それが移動しない限り、

魂だけ入れ替えても気づけない。」

「・・・・」

「地球上の生物全てにオリジナルな魂があるとなると、

この世にはとんでもない数の魂があることになってしまう。」

「・・・確かに。」

「そんなに多くのオリジナルの魂はどこからきてどこへ行くんだ?」

「・・・・」

「論理的に考えれば、そんな魂は無いっといったほうがすっきりするだろ?」

「ああ、確かに。」

「でもな、そうなると一つ問題がある。魂が無いとすると、今俺の話を聞いてあれこれ疑問に思うお前の心はなんなんだ?って話になってしまう。」

「・・・・確かに、話を聞いて考える俺は確かにいる。」

「だろ?つまりな、あれこれ考える自分は確かにいる。ということは、魂は無いとも言えなくなっちまう。だって、少なくともお前は疑問に思ったり、感情を感じる心があるだろ?」

「ああ。」

「まさにそれがデカルトの、われ思う故我あり、なんだよ。そうすると魂とはなんだ?となる。すべての生物にオリジナルの魂があるとすると、とんでもない数になってしまう。だからと言ってそんなものは無いと言っちまうと、じゃあ、あれこれ考える俺は何なんだ?となってしまう。これはどういうことかわかるか?」

「・・・・難しいな。」


「簡単だよ。こう思えばいい。魂は一つだけある。それは神かなんかは知らないが一つだけある。そしてすべての生物には、その一つから分岐した魂が宿っていると。ちなみに、魂が入っていないが動き回る人間を哲学的ゾンビという。」

「・・・・神?」

「ああ、あえて神様とでも呼ぼう。仏でも良いぞ。」

「じゃあ、あんたの中にも神がいるというのか?」

「とんでもねえ、あたしゃ神様だよ」

「・・・・・」

「まあともかく、魂は一つしかない。ONEだから神とでも呼ぼう。んで、すべての生物に宿っている。俺にもお前にも。中身は同じ神だが、その周りをまとっている肉体はその環境や遺伝子によって変わる。つまりな、この世には神一人しかいないんだよ。神が色々な生物になりきって遊んでいる世界。」

「・・・えらくぶっ飛んだ考えだな。」


「そうか?地球上にいる微生物やアリンコや人間すべてにオリジナルの魂があるって考えるほうが無理がないか?どこからきて死んだらどうなる?すっきりと納得できる答えができるか?」

「・・・確かに難しいな。」

「じゃあ、受け入れろ。お前は神だ。あのウエイトレスも神だ。あのおばちゃんも神だ。お前をいじめた人間も、お前の親も神なんだよ。ただ、自分が神であったことを忘れて、その役になりきっているだけ。ん~まさに、ゲームを心の底から楽しむため、わざと苦難を設置し、人生を困難にし、きわどい難易度に設定し、そういうことをすべて忘れて役になりきっている。」

「・・・・」

「昔から言うべ?越えられない困難はないって。当たり前の話だ。ゲームを作る時、絶対にクリアできないゲームをお前は作るか?しかもそれで遊ぶのは自分なのに。」


「・・・じゃあ、俺の困難は自分で作ったっていうのか?」

「そうだ。お前の中の神。まあ、俺の中にもいる神も同じ存在だが。ともかく、ハードな環境だとしても、ハッピーエンディングが見れるように頑張るしかない。」

「ん~・・・。そんなひどい。」

「何がひどい?」

「だって、なんで俺だけそんなに難しいゲームをしなければならないんだ?もうちょっとイージーなモードでプレイしたかった。」

「何を言っている?お前にとって、イージーな人生ってなんだ?初期の所持金が999999Gか?かっこいい顔か?女にもてる存在か?お前は新作ゲームを買ってきたらすぐにチートを使って10分でクリアーするのか?」

「・・・しない」

「だろ?せっかく金払って買ったゲームなら、じっくり時間をかけて遊びつくしたいだろ?」

「・・・確かに。でも、やっぱりもう少し楽に。。。」

「だから、楽な人生ってなんだ?お前はこの世になんの苦しみもなく死ぬまでハッピーな人間なんか存在すると思うか?王子様の身分で何でも好きなことができたお釈迦様ですら、人生は苦だ、って言ったぐらいだぞ。イエスキリストなんか、貧乏人や病人、罪人として迫害を受けた人々も分け隔てなく救おうとして十字架に磔にされたのは知ってるだろ?」

「・・・・誰もいないのか?」

「俺が聞きたい。お前はそんな人間が存在すると思うのか?つうか、なんの苦しみもないゲームってやりたいか?敵が全く出てこなかったり、一撃で倒せたり、最初から所持金MAXなんでゲームをよ。ゲームは苦労するから面白いんじゃないのか?」

「・・・・」

「どんな人間にも、その人間にしかない苦しみは必ず存在する。というか、存在させている。なぜなら、ゲームを面白くするためにな。お前から見たらどうでもいいことに思えるような事に苦しんでいる人はいっぱいいる。また、お前を見てなんて幸せな人間なんだ!とうらやましがる人間もたくさんいる。」


「俺をうらやましがる?」

「ああ。いっぱいいるぞ。仕事もせず引きこもっていても飯が食えるし、夜も命の心配をせず眠れる。なんて恵まれた環境なの?ってな。お前はこのオープンワールドの中で引きこもっているから知らないだけ。世界は広い。お前は便所の裏に置いてある石の下が世界のすべてだと思い込んでいるダンゴムシと同じだよ。」

「・・・・」

「まあ、ともかく、人生は神のゲームだ。いくらクソゲーみたいだと感じても、コントローラーをぶん投げたり電源を切らずにプレーしてろ。そのうち人生ゲームの奥深さに気づいて面白くなってくるからよ。まさに本物そっくりのゲームだ。リアルな世界、リアルな味覚、リアルな感触、リアルなワクワク感、リアルな恐怖、リアルな快感、何から何まで本物そっくり。どうせゲームならば、ランキングにのるぐらいの高得点を目指せ。」

「・・・・ああ、わかったようなわからないような感じだが、努力してみる。そうそう、じゃあ、俺を縛って身動きをとれなくする過去とはどう向き合えばいいんだ?」

「・・・・ちょっと待て、あ~ちょっとお姉さん!このショートケーキ2個頂戴!」

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