第30骨「童貞丸出し!死霊使い!」

 あなたが落としたのは金の斧ですか、それとも銀の斧ですか。


 広く知られた童話の中にそんなセリフを含む童話がある。この話は正直な行いをすると得をすると言う教訓を伝えるものだが、実際に、二つのもの、特に両者に大きな差がないものを選択することを強いられた場合、どうすれば良いのだろうか。金だって銀だって、どちらも素晴らしいものだ。どちらか一つを選べと言われたら、直観的に選ばざるを得ないのかもしれない。


 もちろん、その両者で自分はこちらを絶対に選ぶと言う確固たる意志が存在すれば選ぶことは容易い。だが、どちらも等しく好きで、どちらもひとしく愛しているのならば、二つとも選びたくなるのは必然だろう。


 どちらの方が好きなのかを自分の中で決めることは、思っている以上に覚悟も、勇気も、思い切りも必要となってくるのだ。


 恋する双子と、一人のマスター。咲愛と莉愛、ふたつから、ひとつを選ぶのは非常に難しい……


「みんな……すまなかった……」


――そして、ありがとう。


 黒瀬が最初に述べたのは、謝罪と感謝。マスターなのに気絶してしまうなんて情けない思いがあったのだろう。悪かったと思った時は、マスターとは言え、素直に謝ることも大切だ。


ぬし、心配したのじゃ!」


 ピザピンちゃんがそう言って俺の胸元に飛び込んできた。こうしてみるとピザピンちゃんは王族と言うより小動物って感じがする。


「咲愛も莉愛も、心配かけた。もう俺は大丈夫だ」


 しばらく休養を取っていたおかげか力が自然と湧いてくる気がする。やっぱり人間、休むことも必要だと身をもって感じる。


「マスター、この砂城螻馘アンモスサッビアでは何をするつもりだったの?」


 莉愛が黒瀬に尋ねたのも当然のことで、目的地として設定されていたものの何をするための目的地なのかは詳しく聞いていなかった。


「まあ、中継地点ってこともあったけど、大きな目的は装備を整えることだ」


 これから大屍魔窟マレドードゥンに向かうなら、準備は万全にしておくべきだ。途中で後悔したって遅いからな。


「装備……たしかに必要だ……」


 咲愛もすぐに納得したようで、二言目にはどんな装備にしようかなと想像を膨らませていた。


 俺たちは今まで、とにかく魔法の力だけで無理矢理困難を乗りこえてきた感が強かったが、これまでの戦いも十分な装備があれば楽に勝てたものもあったかもしれないと今になって思う。


 まあ、振り返ってみれば、そんな暇さえもなかった慌ただしい旅だったかもしれない。


 いやいや、これで終わりだなんて雰囲気を出していてはダメだ。俺たちの戦いはこれから始まるんだ!


「……と言うことで、マスター、あたしの装備はどう?」


 タンクトップにホットパンツ、格闘攻撃中心だとは言え、露出が多くないか。脇が丸見えだし、むっちりとした太ももも主張しすぎている。この砂城螻馘アンモスサッビアが暑いせいか、少し汗ばんでいる姿でこちらを気にする咲愛。


やっぱり、肌色が多いよな……いや、やっぱり、多すぎる、いやでもそれが良い! 絶対に良い!


 俺は心の中で独り言を連発して、高ぶる気持ちを抑えようと努めていた。この少女はマスターと眷属である以前に男と女の関係もあると言うことを理解していないのだろうか……


「ねぇ? どうって聞いてるんだけど、おーい、マスター!」


 こう言う時って、どう答えるのが正解なんだろうか、女性経験に乏しい俺には正しい回答が分からなかった。

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