第29骨「秘密の会談!今湊姉妹!」

「ふふふ~ん♪ ふふふ~ん♪」


 鼻歌交じりに気分よくシャワーを浴びる咲愛。濡れる髪から滴り落ちる水滴が妖艶な様子を醸し出し、それでいて発育途中の胸部が少女のあどけなさを残している。美しい裸体の一人の少女、少女は己の体をゆっくりと舐めるように手でするすると触っていく。


――そこで、少女はあることに気が付いた。


「そんな……」


 一瞬にして少女の表情は曇った。そのある部分がどうなっているのかを鏡で見て確かめるも、自分の触った感触の通りの姿になっていることを知りさらに少女の表情はかげる。


「咲愛、ちょっと相談なんだけ……」


 そう言って莉愛は戸を開けてシャワールームへと顔を覗かせた。その時、莉愛は戦慄した。

 理由は、咲愛の背中から骨がむき出しの状態で見えたからだ。あらわになった肋骨を見て、莉愛は思わず言葉に詰まったようだった。


「莉愛は、大丈夫なの……?」


 絶句する莉愛を見兼ねて、咲愛が妹である莉愛に声を掛けた。その声が莉愛には強がっているように聞こえた。


「……まずは、自分の心配をしなさいよ、咲愛。私の心配なんてしなくていいよ……」


 悲しい声で、莉愛は言った。

 そんな体になったことを知って辛いのは自分のはず。なのに、私を気遣って、無理して、やせ我慢して、そんなことしなくたっていいのに……


「咲愛……」


 莉愛は咲愛を無言で抱きしめた。咲愛の頬からはとめどなく涙が流れている。せっかく生き返ったのに、やっぱり自分たちに残された時間は少ない。そのことを身をもって実感する2人だった。


「莉愛、マスターには内緒にしといて」


 咲愛は黒瀬に無駄な気を遣わせたくなかった。きっとマスターがこのことを知ったら自分をもう一度あの桜の木の下に戻してくれる、そう思った。

 でも咲愛は自分の身がどれほど醜くなろうとも、主人の記憶をなくして彷徨さまようことになったとしても、最後まで一緒に旅をしたかった。自分のこの第二の人生が終わるまで楽しい旅を、続けていたかった。


 いずれは朽ちく身、肉体だって自我だって、いずれはなくなってマスターである黒瀬頼央に付き従うだけの骨に成り果ててしまうのだと思うと怖い気持ちがなかったわけではない。

 でも、あんな土の中で永遠に眠っているよりもよっぽど良い人生を送れている、そう信じていたからこそ、咲愛は折れなかった。


「あたし、マスターのことが好きだ」


 咲愛は莉愛に宣言する。その表情はかたくなで、莉愛に譲る気はないぞと牽制しているようでもあった。


「いいよ、別に。私はみんなで過ごす時間が、一秒でも長く続けば良いって思ってるだけだから」


 口ではそう言っていた莉愛だったが、心のどこかがチクリと痛むのを感じた。私は応援しないといけない、咲愛の恋、姉の人生最期の恋を応援しないといけない。そう自分に言い聞かせて自分の気持ちには蓋をしていた。


「莉愛、本当は、どうなの……」


 咲愛は遠慮なく、容赦なく問う。自分が咲愛のことを分かっているように、咲愛だって、莉愛の気持ちが理解できている。それが双子、包み隠すことなんてない。誤魔化したって結局は筒抜けなのだ。


「私はまだ、分からない……この気持ちが好きって気持ちなのか。でも、今の咲愛の言葉を聞いて胸が痛くなった。咲愛、やっぱりこれが……」


 言語化すればするほど、思考が整理され、ただのふわふわした気持ちに名前がついてしまう。自分だってなんとなく気が付いていたはずなのに。なんとなくですませてしまっていたら楽だったのに……

なんとなくで終わっていたら、見えなかったものも見えてきてしまった。


 それが恥ずかしくて、嬉しくて、それでも向き合いたくなくて。


「やったじゃ! 2人とも!」


 幼女が押っ取り刀で駆けつけてきた。一体何があったのかと言うことに関しては、2人ともなんとなく想像ができた。


「主が目覚めたのじゃ!」



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