第6話 エグバート王国 近衛兵団長 イライアス

二人は、元の通路に引き返した。そして、突き当りの角を曲がった所にある隠し扉を目指した。


ここまで来ても、ヘイデンの軍の追手は来なかった。


しかし、いつまたヘイデンが部下を連れて引き返してくるかも知れない危険があったので、イライアスは、素早く壁に細工された扉を開いて、壁に掛けられている松明に手を伸ばし取り上げると、エドワードの身を隠し通路に導いた。


そして、自分も中の隠し通路に飛び込みすぐさま扉を閉め切った。

 

イライアスが持っている松明の炎を、隠し通路の壁に備え付けられた松明の一つに付けると、手前から順々に奥に向かって炎が他の松明に伝わっていった。


松明の炎で明るくなった隠し通路は、幅が細く天井も低い通路であった。


イライアスは、持っていた松明を壁に掛けると、再び剣を鞘から抜き出し、通路を前に進み始めた。


少し下り坂になっている通路は、否応なく二人の歩みを速めた。


 二人の吐息だけが細い通路に響き渡る。


「王子、もうすぐ出口に到達します」


イライアスが指さした方に目をやると、光が差し込む通路の出口が遠くに見えた。


「出口の先は城外の東側にある森の入り口付近となっております。そこから森に侵入し、その先にある山の祠までは一直線の線上にあります」


イライアスは、時折、口中に溜まった唾をゴクリと飲み込みながら、息を整えてエドワードに言った。


「出口には敵はいないであろうか」


エドワードがイライアスに問いかけた。


「出口付近まで近づいてみないとわかりませんが、もしいたならば、私が囮になり敵を引き付けます故、どうぞ王子は一目散に森に駆け込み、山の祠を目指して下され。そして、王が申されていた聖剣を手に入れて、必ずや七人の仲間と共に魔導士マーリンの野望を打ち砕いて頂きたい」


イライアスの顔が引き締まった。


自分の命を擲ってでも、エドワードの命を守るという決意が言葉に表れていた。


「わかった、イライアス。私は山の祠を目指し、聖剣を手中にし、仲間と共に魔導士の野望を打ち砕いてみせるぞ」


エドワードは、イライアスの言葉に呼応して、彼の肩に手置くと、硬く誓いを立てたのだった。


「では王子、出口に参りましょう。どうかご無事で」


「イライアス、ここまでの功労に感謝する」


お互いに別れの言葉を口にすると、出口に向かって駆けだした。


出口からの光が近づいてくる。


あと少し、もう少しで外に出られる。


イライアスが勢いよく出口から飛び出そうとした瞬間だった。


出口の穴に大きな一本の角を頭に生やした一つ目の顔が通路内を外から覗き込んできた。


すぐさま、駆けていた足を止めて立ち尽くすイライアス。


エドワードは急に立ち止まったイライアスの背中にもう少しで後ろから体当たりしそうになった。


「何だ、あれは…」


イライアスが驚愕した顔で後ずさりした。


「化け物だ。バーンハルト軍の魔族だ」


エドワードも来た道を後ずさりして叫声を上げた。


先程の王の間にて、兵が報告していた場外で暴れている巨漢の魔族とは、きっと奴のことだろうと、イライアスは思い返していた。


「王子、ここは先程お伝えした通り、私が先に飛び出して敵をおびき寄せます。その隙に、森に駆け込んで下さい」


イライアスは、エドワードにそう言い終わると、両の手で剣を握った。


身体の正面に祈るようにして剣先を天井に向けて、ゆっくり目を閉じて呼吸を整え、息をする度に大きく上下する胸板の動きを鎮めた。


「王子、参りますぞ」


イライアスが大きく息を吸って、エドワードの前を再び駆けだした。

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