最弱魔術士が必殺爆発魔法を使える簡単マニュアル

 私は冒険者ギルド最強の爆発魔法の使い手である。爆発魔法とはその名の通り、対象もしくは一定の範囲を爆発させる強力な攻撃魔法だ。私は爆発魔法で数多くのモンスターを打ち倒してきた。その実績から今では最強ランクであるS級の冒険者となっている。


 しかし、私は3年前まで爆発魔法はもちろん、攻撃魔法を一つも使えない最弱の魔術士であった。最弱魔術士であった私がいかにして最強の爆発魔法を使えるようになったのかここの読者に特別に教えたい。


 もし爆発魔法に興味がある方、すぐに攻撃魔法が使いたいと思う方はチャンネル登録……… ではなく、下記に目を通してもらいたい。


 3年前、攻撃魔法を使えない私は冒険者ギルドでの仕事がなく、日銭を稼ぐため、農村へ出稼ぎに来ていた。古びた小屋に案内された私の眼前に広がるのは刈り取られた数多くの小麦の穂。すでに地元の農民が穂を手に取り、穂から粒を取り出していた。


「よー、兄ちゃん、今日もお願いするな」


 ヒゲのおっさんが穂の束を私に手渡す。私に課せられた仕事はまず小麦の脱穀である。小麦の脱穀は全て手作業で行われており、人手が多く必要なので、仕事のない冒険者が手伝いに来るのが通例であった。私は地元の農民とともに脱穀に勤しんだ。


 数日後、脱穀を終え小麦の粒が大量に積まれる。私の第2の仕事が始まる。私の数少ない魔法が使える仕事だ。


「お兄さん、ちゃっちゃとやっちゃってよ」


 恰幅のいいおばちゃんが私の背中を強く叩く。しばらくの痛みの後、私は目をつむり精神を集中する。手のひらがほのかに光る。手を小麦の粒にかざす。


 粉砕魔法ミリング


 小麦の粒が次々と粉状になっていく。私の魔法は草や小麦を細かい粉まで粉砕するものである。


「お兄ちゃん、すごーい! これも粉にして」


 小さな女の子が小石を渡してきた。私は精神を集中して光った手のひらを小石にかざした。


 粉砕魔法ミリング


 小石に変化はない。


「ごめんね」


 私はため息をつき、小石を少女に返す。


「ださーい」


 少女は走り去った。私の粉砕魔法は草や小麦などの柔らかいものしか粉砕できない弱いものだった。石など硬いものは粉砕できない。


「兄ちゃん、元気出せよ」


 ヒゲのおっさんが優しく私の肩を叩く。おっさんの慰めが私の気持ちを惨めにさせた。


 バチバチッ!


 私の体が一瞬青白く光る。


「いたっ!」


 おっさんが素早く私の肩から手を離す。


「すみません、つい魔法を」

「兄ちゃん、気をつけなよ」


 雷魔法を発動させてしまったようだ。ただ、私の雷はあまりにも威力が弱く、人に少し痛みを与える程度である。攻撃には役に立たない代物だ。私は再びため息をついた。


 魔術の勉強をして早20年。使える魔法といえば、威力がほとんどない粉砕魔法と雷魔法だ。このまま、日銭で生活する人生で終わってしまうのか…… そんなことを思うとどうしても下を向いてしまう。


「キャー!」


 小屋の外で悲鳴が聞こえた。小屋を出ると、先ほどの少女が腰を抜かしている。少女の目線の先には人1人を丸呑みできるほどの巨大な虎がいた。


 グルルルルル


 虎は今にも少女に襲いかかろうと唸っている。私は腰につけた袋を口を開く。そして袋に手を入れ、中にあるものを虎に向かって投げつけた。虎が目をつむる。辺りが粉まみれになった。畑の肥料用に粉砕魔法で雑草を粉にしたものであった。虎が怯んでいるスキに俺は素早く少女のもとで走り、少女を抱えて、小屋に入った。


「大丈夫?」

「あ、ありがとう……ううう」


 少女は泣きじゃくっている。


 ガオー!


 小屋の外で虎が雄叫びをあげた。このままでは村に被害が出るのは間違いない。私は震える膝を叩いた。


「私が囮になって、虎を村から離れるよう誘導します」

「お兄さん、危ないって」


 おばさんが私を心配する。


「私は一応冒険者ですから」


 私は小屋を飛び出した。再び虎に合間見える私。虎は鋭い眼光で私を睨む。私は腰の袋にある粉を多めに虎に投げつけた。虎は一瞬怯むが、粉が舞い散る中私に向かって突進してくる。


 南無三!


 私は苦し紛れに手のひらから小さい雷を放つ。痛みで逃げる隙が作れるかもしれない。そう思って、放った雷であったが……


 BAKKOOOOOOON!


 とてつもない爆発音。あっという間に虎の巨体が丸焦げになった。村人たちが音に驚き一斉に飛び出す。焦げた虎と立ちすくむ私。異様な光景に村は静寂に包まれる。一体何が起こったのか自分でも信じられない…… 窮地に追い込まれた結果、私の魔力がいきなり跳ね上がったのかもしれない。私は地面にある小石を拾う。


 粉砕魔法ミリング


 小石に変化は起きなかった。私は指先に精神を集中し、虎を指差す。


 静電気ライトニング


 指先から放たれたのはいつもの小さい雷。どうやら、私の魔力に変化はないようだ。先ほどのは偶然なのか奇跡だったのか。


「お兄ちゃん、すごーい!」


 少女の喜びの声とともに歓声に包まれた。


「兄ちゃん、すごい爆発魔法使えるんだな。出し惜しみするなよ」


 おっさんが私の肩を何度も叩く。


「これはいい肉が手に入ったよ。兄さんのおかげだね」


 おばさんが袖をまくりあげる。


「あ、どうも……」


 私はそっけなく返事したまま、なぜあの爆発が起こったか思案していた。あの時の状況を思い出してみる。粉まみれの虎、そして雷。もしかしたら、粉の元となった雑草の一つが魔法の威力をあげる魔法の植物かもしれない。私は袋の粉を地面に起き、粉に向かって雷を放った。しかし、粉に変化はなかった。もう訳がわからん。悩んでも仕方ないので、私は村人と虎の解体を手伝った。


 翌日、村を出てギルドへ帰る途中、おもむろに袋の粉を空中に撒き散らした。そして、何気なしに雷魔法を放つ。


 BAKKOOOOOOON!


 粉が爆発した。まさか…… 空中に粉を撒き散らすと、小さな火花で爆発するのか。私は、粉砕魔法で色々な草を粉にして、空中での爆発を試してみた。実際、草の種類はあまり関係なく、空中に粉を撒き散らせば爆発は起こせるみたいだ。しかも、ダンジョンのような密閉した空間では威力が増す。


 私はこの粉撒き爆発魔法でモンスター退治の実績をあげ、冒険者としての名声を得たのだ。魔力も少なく粉さえ用意すればできる爆発魔法、あなたも試してみませんか?


 ただ、狭い場所で使用するとパーティメンバーが巻き添えを食らうのでご注意を。















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