8月31日 僕はきのう失恋した

柚木サクラ

第1話

僕はきのう、失恋した。でもたくさんのものを得ることができた。悔しいからそのように自分に言い聞かせる。

彼女のいた樹の下に僕はいる。昨日までは一緒にいることができた。隣で座っていた。話をしていた。泣いていたこともあったけど、最後は笑ってくれていた。


でも今日はいない。


この1ヶ月彼女は楽しかったのだろうか。思い出を作れたのだろうか。幸せだったのだろうか。僕は彼女との1ヶ月を振り返る。



令和が始まって初めての夏。7月31日。部活にも入らず、友達も少ない僕は1週間前に始まった夏休みをただただ無駄に過ごしていた。昼前に起きて、日中は飽きつつあるスマホのゲームを事務作業的に行い、夜は動画サイトやまとめサイトをボーっと観て、眠くなったら寝るという日々。

憧れの高校生という幻想は入学して1週間で崩れ去った。それからというものただ淡々と学校に通い、家ではこのような自堕落な生活を送っている。こうやって僕は高校3年間を過ごし、なんとなく大学に行き、なんとなく就職をして、なんとなく死んでいくのだろうか。そんなことを考えていた。


昔は過保護だった両親も、弟が東大に何十人と合格者を出す超進学校の中学に合格してからというもの、僕のことは気にしないようになっていた。

「どんな将来になろうがかまわないが弟に迷惑だけはかけてくれるな」

と言われた時は、両親の興味は弟の将来にしか向いてないと感じ、少し寂しくなったが、それでもバイトをしなくても高校生活が送れるぐらいのお小遣いは渡してくれているので、僕は幸せだと思うし、感謝はしなくてはならない。

弟は部活で家にいない。両親も仕事で家にいない。そんな7月31日の昼下がり。机に置いてあった昼食代を片手に、僕はコンビニに向かった。コンビニへの近道のため、自宅マンションの横の大きい公園を通っていたその時だった。


僕は樹の下のベンチで座っている彼女に出会った。

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8月31日 僕はきのう失恋した 柚木サクラ @bynobu

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