二話

「空木《うつぎ》様の所にですか?」

「ええ、お願いできるかしら。

……これも安心課の仕事だから、

きちんとこなして頂戴」

「はい、大丈夫です」

じゃあ、お願いね。

楓さんは念押しするようにしてそう言うと、

さっさと自分の仕事に戻ってしまった。

それを咎めることは私にはできない。

楓さんはこの課でも五指に入る、優秀な術士だ。

あの世に来た時に人間は、肉体の代わりに

何らかの術を宿す可能性がある。

秘玉ひぎょくと呼ばれる玉に手を当てると、

その有無を調べることが出来、

安心課に入るためには

それが確認できなければいけない。

が、術の形は人それぞれで、

その形は自分で探すしか方法がない。

十人十色なその術を駆使して、

あの世の生活を豊かにするのがここの仕事だ。

…楓さんは具象化の術を持っている。

工程を知るものしか作れないが、

それでも随分とたくさんのものを作ることが出来、

それに比例するようにして仕事も増える。

机に山積みの書類は半ば雪崩を起こしかけていて、

隈の酷い顔は、

少し心配になるくらいで。

「行ってまいります」

思ったところでどうにもならない。

私の手でも、秘玉は反応したって言うのに。

同僚と言いつつも、

弾かれているようなこの感覚が、

本当にここにいていいのかと、

私の心を締め付けて止まない。

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