第七章

01 人質(+ある男3)


 第七章 人質(+ある男3)


 頭上で爆発があったあと、すこししてから、エミルはフリッツと遭遇した。

「よう」

 と声をかけてきた。

「はぁい」

 といちおう挨拶を返しながらも、エミルは考える。

 ――なんの用だろう?

 自分はいまケースをもっていない。にもかかわらず、フリッツはまっすぐにこちらへとむかってくる。

 そして腕を掴んだ。

「えっ。痛っ。ちょっと、おにいさん、痛いんだけど」

 エミルは訴えるように言った。

 ――これって、どうなってるんだろう?

「わけわかんねえって顔してるな」

 フリッツが言った。

「わけわかんないよ。なんでぼくを捕まえるのさ?」

「教えてやろう――」

 カチャ。

 フリッツがホルダーから拳銃を抜いた。

 エミルのこめかみに、ぐっとそれを当てて、彼は言った。


「おまえは今から人質だ」


     ***


「……エミルが、攫われた!」

 ヘディの叫び声がトランシーバーから聞こえた。

「誰にだ?」

 ラスティは訊いた。

「フリッツよ。……ねぇ、どうして攫われたのかしら? まさか、怪我させられたりしないわよね?」

「…………」

 ラスティは混乱した。

 ――むこうの意図が完全に理解できない。

 というより、これは、むこうの論理が破綻した、ということじゃないか?

 ラスティは考えた。――フリッツがやったということは、もしかしたら、単独の可能性がある。この現状に、コリーの意図はどうしても汲めない。彼の思想が、この背景にはない気がする。

 そのとき、ふいに肩を掴まれた。

「あっ」

 振り返ると、うしろにポールが立っていた。

 ――しまった!

「坊主、よそ見はよくないぜ」


 ポールはラスティのもつケースを、いとも簡単に取り上げた。


     ***

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