03 試合開始、エレベーターとぼくらの正体


 〈大会〉当日。――会場前にて。


「……いよいよだね」

 エミルが緊張した声で言った。

「なんだよエミル、おまえ、がちがちじゃねえか」

 ダイスケが茶化したように言ったが、そういう彼の声にも緊張が含まれているのがわかった。

「……今日、あたしたちは、事件を起こすのよ」

 ヘディが言った。まだなにも成してはいないけれど、彼女はすでに誇らしげに胸を張っていた。

「何にも起こらねえかもしれねえぜ?」

 ダイスケが意地悪な表情で言った。

「なによ」

 ヘディが頬をふくらませる。「あんた、ビビってるの?」

「いや全然。――でもよお。おれたち、周りのやつらには、おもいっきり舐められてるぜ?」

「舐められてなきゃ、意味がないんだよ」

 ラスティがきっぱりと言った。

「ああ。そうだな」

 ダイスケは素直に同意した。

「負ければきっと、〈選択〉を間違えたって、周りからは言われるだろうさ」

「でもあたしたちが、意志を持って決めたことよ」

「たとえ負けたとしても、おれは悔いはない」

 ダイスケが言い切った。「――いやまあ、とうぜん勝つけどな」と付け加える。

「勝てるかな?」

 エミルが訊いた。

「たぶん勝てるさ。みんな、自信はあるだろ?」

「でも確信はない」

「そういうもんさ。なにかことを成すときってのは、結果が出るまで、本人にもわからないもんだ」

 と、ラスティが言った。

 きっと彼は、自分よりも多くのことが見えているんだ。――そう考えて、他の三人はラスティの言葉を信じることにした。

「そういうもんなのか」

 エミルがすっきりした顔で言った。

「そろそろ入らないとな」

「と言いつつも、さっきからあたしたち、ずっとここにいるわよ。会場まであと一歩のところに」

 ヘディがそう言うと、エミルがくすくすと笑った。ダイスケとラスティはバツの悪そうな顔をする。

「……まえに話したこと、覚えてるか?」

 ふと、ラスティがみんなにむかって訊いた。

「もちろんよ」

 ヘディが応える。「気合を入れるために、この場で叫ぼうかしら」

「いいな、それ」

「おもしろいと思うよ」

 ダイスケとエミルは便乗することに決めた。

「それじゃあ、そうしようか。――いくぞ」

 ラスティが目をぎらぎらとさせて言った。四人は顔を見合わせて、頷いた。

 そして高らかに宣言する――。

「おれたち」

「あたしたち」

「ぼくたちは」


「「「「世界を騒がせるために生まれてきた!!」」」」


「――今日がその第一歩だ!」

 そうして四人一緒に会場へと踏み込んだ。


     ***

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