第三話 謎の遺跡

 新幹線に四時間乗って、在来線に一時間。さらにバスで二時間。そして徒歩三十分で民宿に着いた。もう夕暮れ時である。

「遠い。しかも私の実家よりはるかに田舎。ここ電波ちゃんと来るん?」

 そんな不安をよそに教授は説明を始める。

「今日は移動だけだ。明日から本格的に矢型遺跡の発掘を開始する。みな気を引き締めるように」

矢型やがた遺跡いせき…?」

 聞いたことない名前。

「正式な名称はまだ決まっていない。私が名づけた仮の名前だ。上空から見るとこの遺跡は矢の形に似ている。それにちなんでいる」

 この一帯にそんなに大きな遺跡が眠っているらしい。暗くて良くわからないが。

「明日からの作業に備えて今日は早く寝るように」

「わかりました」

 民宿の部屋に入る。祥子、真央と同室だ。

「…じゃあ真央先輩も今日が初めて?」

「そうよ。教授がどうしても場所を教えてくれなくて」

「どしてですかね? 博物館とかに協力を仰いだ方が効率的でしょ? 教授一人と学生六人じゃ期間中に終わるかどかも怪しい」

「よっぽどこの遺跡が価値のあるものなのかもね。発表すらしてないんなら」

 祥子とそんな話をする。

「とにかく、明日からはテキパキと動いてもらうわよ。私の卒論がかかってるんだから!」

「はーい」

 恵理乃と祥子は真央に会話を打ち切られた。そしてすぐに寝た。


 次の日は晴天だった。発掘は予定通り行われる。

「暑いなあ」

「雨降るよりマシよ」

 真央は遺跡発掘にやる気満々である。一体何が彼女をそうさせているのだろうか?

 みんなが民宿の前に集合すると教授が、

「揃ったか。では出発だ」

 そう言って歩き出した。

 歩いて数分で発掘現場に到着した。

「あまり発掘が進んでないように見えますが?」

「それは公表していないからだ。これから絶対に有名になるのだ。二手に分かれて発掘しよう。烈成くんと大河くんと悟くんは私とこちらを、真央くんと恵理乃くんと祥子くんはあちら側を頼む」

「わかりました」

 指示通りに移動し、発掘作業を始める。


 炎天下の中、給水しながら作業をする。

「スコップじゃなくてさぁ、油圧ショベル持ってくりゃいいじゃんよ? 真央さんそ思いません?」

「誰が操縦するのそんなの!」

「それは公的な機関の人を雇って…」

「つべこべ言わずにさっさと掘りなさい!」

 言われなくてもしてる、とは言いかえさなかった。この人には何言っても駄目だろう。

「おっ」

 祥子が言った。

「どったの祥子?」

「土器見つけた」

 祥子は一度写真を撮って、それからその辺りを慎重に掘っていく。発掘したのは前にプロジェクターで見たのと同じ形状の土器。

「お手柄だね祥子。私しゃまだ何も掘り当ててないよ」

 祥子が発見した土器を真央が確認する。

「これは弥生時代の土器ではないんですか?」

「特徴は似てるわね。でも調べてみれば時代が違うことは明らかよ。ここで掘り出されたものは全部そうだから」

 非常に不思議なことである。でもこの遺跡が発掘し終えたらわかるだろう。そう思って恵理乃はまた作業に戻った。


 発掘作業は難航しなかった。それがかえって不思議だった。この一週間で恵理乃たちは数多くの土器や石器を発掘している。地面はほとんど掘り返され、遺跡の全貌が見え始めてきた。

 男性陣でも発掘は進んでいた。

「教授。これを見て下さい」

 悟が教授に見せたのは石器のような何か。

「一見すると石包丁でしょうが…。でも薄すぎませんか? どちらかと言うと、現代のナイフのような感じです」

 教授はそれを受け取る。

「試しに、切ってみるか?」

 その辺に生えている草に包丁を当てる。すると草は綺麗に切れた。

「…これ、二百万年経ってるんですよね? 何でこんなに切れ味抜群なんですか?」

 教授は首を傾げ、

「わからん。当時の技術は計り知れん。ひょっとしたらもっと高度なものが発掘できるかもしれないぞ?」

 悟は笑って、

「まさか。古代の技術が現代の科学に匹敵するとでも? ありえませんよ」

 悟が現場に戻ろうとした時、烈成が待ったをかけた。

「どうしたんです先輩?」

「よく見ろ悟」

 烈成は自分のいる一帯の地面を指す。

「…何か?」

「変だと思わないか、これ」

 言われて悟が気付く。この地面一帯を掘り起こしてみた始めてわかった。

「この部分。恐らく建物が立っていたんだろう。だが土台が変だ。変と言うか既視感がある。そう思わないか?」

「確かにそうですね。竪穴式住居だとこんな土台はできません。高床式倉庫でもできないでしょう」

「そうだ。これは今のコンクリートの土台に似ている」

「はるか昔にコンクリートが?」

 ありえない話に二人は首を傾げた。

「おーい。凄いのが見つかったぞ!」

 大河がやってくる。

「何だそれは?」

 大河が手にしているものは丸い輪っかのようなもの。

「これは車輪じゃない?」

「そんな馬鹿なことあるか! 車輪が発明されたのは紀元前五千年前のメソポタミアだぞ?」

「でもそれ以外にこれが何か考えられないよ」

 教授が車輪を受け取る。

「…間違いない。古代人のものだ。そして私の考えが正しければ、当時としては比べ物にならない技術力を持っていたのだな」

「そんなオーパーツが日本のこんなド田舎に…?」

 悟の頭はショート寸前である。自分の知っている常識が覆されるのだ。無理もない。

 暑さと混乱でフラフラしてきたその時、向こう側で悲鳴が聞こえた。

「何か起きたのか?」

 烈成が振り返る。

「恵理乃!」

 悟は手に持っていたスコップを投げ捨てて駆け付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る