海底洞窟探検隊

 ざざぁ、ざざぁという音が耳元で聞こえる。その音により彼の意識は少しづつ闇から覚め始めた。うっすらと浮かび上がっている意識下で、彼は自分が倒れていることに気が付いた。


 ざざぁ、ざざぁと波が打ち寄せる音が聞こえる。潮の香りがする、とぼんやりと考えているところで頬を何かにたたかれた感覚がした。


 錯覚だろうか、と考えたが、そのすぐ後に二度三度と柔らかいものに頬をたたかれたので、それが錯覚ではないと思い知らされた。


 彼は、優人は頬をしつこいくらいたたいてくる者を確認しようとしてそちら側に難儀して顔を向け、その者の姿を見ようとしたが、視界がぼやついてうまく見ることができなかった。


 それならばと彼は目で確認することをやめ、スンスンと鼻を鳴らし臭いで確かめることにした。そしてニオイを嗅ぎそれが誰か理解した彼はつついてくる者たちへの警戒を解き、ぶはーっと息を吐いた。


 それから彼は体制を仰向けへと変え、しばし放心したように動かなかった。


 すかさず彼をつつきまわしていたウサギとモグラが、仰向けになった彼の腹の上によじ登ってきて彼の顔を心配そうにのぞき込んできた。


 優人は二匹に心配するなと力なく笑ったが、モグラとウサギは納得していなさそうだった。


 そんなモグラとウサギを一撫でしてから彼はふぅと息を吐き、腹に力を込めて一息で上半身を起き上げた。ジンベーとオールはどこへ行った、ときょろきょろと首を回すと、砂浜に打ち上げられた4人組と翼をおっぴろげて倒れているフクロウとそれをつつきまわしているシャチが見えた。


 彼は白玉とモグドンを定位置につかせてから立ち上がり、4人を無視してフクロウとシャチの方へ近寄って行った。物事には優先順位というものがあるのだから後回しになるのも仕方がないことなのだ、と意識がない如月達に弁解するように呟いた。


 まずはオールをつつきまわしているジンベーに声をかけ、特に怪我はなさそうなのでそのまま拾い上げ頭の上に乗せた。


 そうこうしているうちにオールが目を覚まし、よたよたと力なく起き上がり、翼で頭をさすっていた。そんなオールの前に片膝をつき、無事か、と声をかけた。


 オールは弱弱しくホーと一声なき、頭をぶんぶんと振ってからパタパタと飛び上がり、彼の右肩にとまった。だがまだクラクラしているらしく、肩の上でふらふらとしていた。


 ふらつくオールを見ながらとりあえずは全員が五体満足で特に目立った傷はなし、と判断彼は、また起こさないといけないのかと思いながらうんざりと首を振り、倒れている連中に近寄り一人づつ声をかけていった。


 だが頬を強めに張ってもつねってもなかなか起きない彼らに、今はさっきのようにふざけていられるような状況じゃないんだよ!と吐き捨て、もうめんどくさい!だったらこうだ!とジンベーとともに如月達の鼓膜が破れるぎりぎりの爆音を放った。


 その爆音に驚いた如月一行はトビウオのごとく飛び上がり、何が起きたのか理解できないというように目をしばたいていた。どうやら完全に意識が覚醒したとみてよさそうだ。


「うぐっ・・・ここは・・・・・・・俺たちはいったい・・・?」「頭痛ぇ・・・」「うぅ・・・砂が口の中に」「ぺっぺっ」


「無事そうだねぇ~・・・あんな近距離で衝撃受けたのに傷一つ無い」「お前だって気絶してたんだろ?何でもうそんなに動けるんだ・・・」「お前~卑怯だぞ~!」


 あの衝撃を近距離で受けて、それでもなお大したダメージを負っていない如月達の頑強さに呆れたようにこぼす優人に、如月と優菜は人のこと言えたもんじゃないだろうと反論した。


 彼はその反論を無視し、安否確認のために後回しにしていた現在地の把握をするために、ぐるりと周囲を見回した。


 今自分たちがいるのは洞窟の浅瀬のようだ。エコーで探査してみたところ、どうやら自分は先ほど警戒していたエネルギーがある海底洞窟にいることが分かった。それから少し奥に激しく動きまわる存在も。


 実は目が覚めた時にそのどちらも把握していたのだが、知らん顔をしたいがために気にしないようにしていたのだが、もはや知らないふりはできそうになかった。


 とりあえず今自分たちがいる場所を理解させるために如月達を呼びかけ、ここは海底洞窟であること、エネルギーが奥地で渦巻いているので早々に脱出してギルドに報告しなければいけないことを、特にギルドに報告しなければいけないことを強調して彼は説明した。説明のさい動きまわる存在については伏せることにした。言ったが最後、この集団は考え無しに見に行こうとすると彼は直感で察知したからである。


 如月達は彼からの言葉に口を挟まずに、ふんふんと相槌を打ち熱心に説明を聞いていた。自分たちはダンジョンの素人で、目の前の男は自分たちと同学年ながらダンジョンに自由に入れ、その上Cランクになるほどの経験者、今ダンジョンにいると聞かされたのでなおさら経験者の言葉は聞くべきだ、と考えたからだ。


 真剣な表情で話を聞く如月達を見て、こういう時にギルドのランクというものは役に立つのだなと、彼は思った。


「というわけでデバイスも電話も通じないので、近くにあるギルドに直接報告に行かなければなりません」「え!?通じないんですか?たしか携帯はともかくデバイスはダンジョン内でも通じるはずですよね?」


 ダンジョン内の特殊な影響下では通常の電波は届かない。その対策としてギルド免許とともに渡されるデバイスにはダンジョン内でも通話できる術式が練りこんである。


 それなのにデバイスも駄目なのはどうしてだと、桜は疑問の声をあげた。


 その理由はこの奥地で渦巻いているエネルギーの為、と早口で説明し、はやる気持ちを押さえながら自分はもう行くと告げた。


「とにかく俺は一度ここから離れてこの事をギルドに報告しに行くから、あんた達はこの場に」


 待機していてくれ、と言ったが、その直後にした爆発音によりその言葉はかき消され、如月達に届くことはなかった。


 その音に優人は苦虫を噛み潰したように顔をゆがめ、爆発を起こした者たちに思いっきり心の中で毒づいた。なんでこっちに来てんだよ!出口は他にいくらでもあるだろ!そっちに行けよ!と。


「なんだ今の音は!」如月を筆頭に他の者たちも一気に取り乱し始め、もはや落ち着いて彼の話を聞けるような状態ではなくなっていた。


「俺見に行ってくる!」「あっ待ちなさいよ!」


 優人が予想した通りに如月は音のしたほうへ考えなしに走り去り、それを追って他三人も走り去っていった。


 後に残された優人は、あまりのありさまに顔を覆って天を仰ぎ、呻いた。

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