グッドモーニング
ざざぁ、ざざぁと波が絶え間なく押し寄せる砂浜で、如月、優奈、桜、林田の四人がみっともなく白目をむいて倒れていた。
倒れている四人を見下ろしながら、優人は顔を覆いながら呻いた。
いったい何をどうやったらこんな風に漫画みたいに砂浜に打ち上げられるんだ、そもそもどうしてこいつらがここにいるんだ?偶然にしちゃあひどすぎる!大体何だこのアホ面は!俺がカスだから警戒する価値がありませんってか!
せっかくいい気分になっていたところで、信じられないほどみっともなく、バカみたいなアホ面を晒している仲良し四人組が何の前触れもなく現れた。楽しい時間を過ごしているときに、いきなり自分が疎ましく思っている存在が現れたとする。
これで気分が悪くならないやつがいるとすれば。優人は如月たちをぎろりと睨んでこう続けた。そいつは底抜けのクソだ。
心の中で呪詛の言葉を吐きながら、波打ち際に横たわる不届き者どもを見下ろし、このまま眺めているだけでは埒が明かないと思った優人はとりあえずクソッタレ共を木陰へと運んでやることにした、
運び方は非常に雑で、伸びて伸ばしている腕をつかんでずるずると木陰まで、途中で何かしら障害物があってもよけずに運んでいくというものだ。それを四回繰り返した。
木陰は如月たちが伸びていた場所から少し離れたところを選んだ。木陰は別の場所に、それこそここよりももっと近いところがあったのだが、どうしてそこを選んだのかというと、ただのくだらない嫌がらせみたいなものだ。こんなくそ面倒なことをやらせるのだからこれくらいされて当然だし、我慢しやがれ、というのが優人の言い分だった。
林田をずるずると運び終えたところで、自分が行ったあまりにも稚気じみた大人げない所業を思い返し、顔から火が出そうな気分になった。穴があったら入りたいとも思った。
そしてこいつらが自分の行ったことを覚えていたらどうしよう、覚えていたら俺の学生生活が終わる!と、あることないこと勝手に想像し青ざめた顔で如月たちを見た。
馬鹿か俺は!そういうことしたって良いことなんて何もないってことを忘れたのか!
彼の脳裏に新卒で雇用され、研修期間が終わりようやく配属され仕事を開始し始めた時のことが浮かんだ。そのとき同じ部署に配属された自分と同じような新人の中に、非常に喧嘩っ早いやつがいた。
そいつは非常に上司を嫌っており、ある時上司がちょっとしたミスをやらかした。大したことはない、それこそまあそれはしょうがないことだ、とそんな風に許される類のちょっとしたミスだった。
そしてそいつは鬼の首を取ったようにその時の雰囲気にまかせその上司をさんざんに侮辱した。結果は見るまでもなく、翌日そいつのデスクは消えていた。
彼はその時誓ったのだ。あんな餓鬼まるだしのバカのようにはならないと。大人になるということを。それすなわちイラついても本人には決して言わないということを。怒りにまかせて後先考えず行動しないと。
危うく自分はそいつと似たような末路をたどる羽目になったことを彼はギリギリのところで悟ることができた。
だがやったという事実は本人の記憶に無いとしても自分の記憶に残り続ける。
恥ずかし~!とのたうち回っていると、呻きながらせき込む声が聞こえた。とうとう誰かが目覚めたのだ。
その声にはっとなり、あたふたと何かしようとしたが、結局何もせず起き上がっている如月の意識がはっきりし、話しかけられる状態になるまでただ黙って見守ることにした。
やはりというか、一番初めに意識を取り戻したのは如月であった。如月は上半身をうめき声をあげながら起こし、頭を振るってふらつく視界を強引に戻し、きょろきょろと怪訝そうにあたりを見回した。
そしてきょろきょろと周囲を見回しているうちに、ついに優人と目が合った。しばし互いに無言で見つめ合い、気まずくなった優人は、とりあえず如月にどこか痛むところはないか、とあたりさわりのないことを聞いた。
「ああ・・・少し体が痛むけど・・・うん!だいじょうぶだ!」「そう(無関心)」
「佐藤が俺たちをここまで運んでくれたのか?」「ああ・・・うん、・・・・たまたまさ」
「そうか!ありがとな!」にかっと笑いながら礼を言ってくる如月に、どうやら乱暴に引きずった事は覚えてなさそうだ。それどころか知りもしなそうだ、と内心ほっとしていた。
とりあえず事情を聴くのは全員が起きてからということになり、それまではこの
「なあなあお前も海に来てたんだな!」
「なあなあここどこなんだろう。人が全然いないぜ?」
「なあなあ俺たちちゃんと帰れるかなぁ」
「なあなああいつらいつ起きるんだろう?」
「なあなあ俺たちの(うぜぇ・・・・・)
マシンガンのようになあなあ言ってくる如月に内心うんざりしながら、それでもいかにも聞いているように表情を作り、早く誰かしら起きてくれ、と切実に願った。
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